本研究課題では、癌細胞を取り巻く微小環境に着目し、間接的に癌幹細胞を標的とする治療法を視野に入れた検討を進めてきた。計画書では本年度に研究成果をまとめることを当初の予定としていたが、その計画をはるかに上回り、昨年度論文にまとめることができたため、本年度は更に具体的な内容について検討を進めることが可能となった。CD44は様々な生理学的機能を有する表面マーカーであり、癌組織においてその発現が亢進することが示されている。特に、癌幹細胞を認識することのできるマーカーであるとの報告が乳癌、大腸癌、胃癌、膵癌などでなされており、治療標的細胞として有用である。CD44はその構造の違いによりCD44 standard formとCD44 variant isoformが認識されているが、2011年、Ishimotoらは、CD44 variant8-10が細胞表面に存在するcystine transporterであるxCTを安定化することにより、細胞を酸化ストレスから保護していることを示した。更に、xCTの阻害剤であるsulfasarazine投与によりマウスにおける腫瘍形成能を著しく低下させたことから、CD44 variantの発現が、癌幹細胞としての性質に寄与していることの重要性がうかがえる。本年度はこれまで用いてきた、幹細胞を濃縮した分画であるSide Populationより更に具体的な細胞マーカーとしてCD44 variantの発現に着目し、癌間質細胞との関連について明らかにすることを目的とし検討を進めてきた。初めに我々の研究室で保持されている膵臓癌細胞株7種類に対してCD44 variantの発現を確認したところ、細胞間で発現量の差が顕著であることが明らかになった。今後、膵臓癌におけるCD44 variant発現とその腫瘍進展への影響などについて詳細に解析を進める必要性があると思われた。
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