研究課題/領域番号 |
11J05622
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
関口 豊和 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 観測的宇宙論 / 宇宙マイクロ波背景放射 / インフレーションモデル / 素粒子宇宙論 |
研究概要 |
本年度我々は、宇宙初期のインフレーション期に生成されたと考えられている初期揺らぎの性質に対し制限を与えることを中心に研究を行った。そのような初期揺らぎを調べることは、インフレーションを起こすインフラトン場を含め、宇宙初期の高エネルギースケールにおいてどのような量子場が存在するか検証することを可能にするため、宇宙論、素粒子論双方の観点から興味深い分野である。 中でも重点的に行ったのは、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測を用いて、初期揺らぎがガウス統計性に従うか検証することである。昨年度に開発した、非ガウス性を持った初期揺らぎの作るCMB非等方マップのしミューレションコードと及びCMB観測衛星であるWilkinson Microwave Anisotropy Probe (WMAP)の最新データを用いて、等曲率揺らぎの非ガウス性および曲率揺らぎの高次の非ガウス性に対する最適な制限を与えた。前者に関してはこれまでに様々な理論予言が与えられていたが、我々の研究が初めての観測的制限であった。また、得られた制限をアクシオンモデルなどいくつかの代表的な理論モデルに適用し、初期宇宙論および素粒子論に対し有用な知見を与えた。一方、後者はデータを最適に重み付けすることで、同等のデータを用いた他の先行研究に比べ大幅な制限の向上を実現した。 その一方で、論文として発表できたのは採用期間後であるが、将来の21cm線観測を用いた小スケールでの密度揺らぎへの制限の見通しについても昨年に引き続き研究を行った。昨年度までは宇宙再電離前の空間的にほぼ一様な中性水素からのシグナルを考えていたが、本年度はミニハローと呼ばれる星形成を起こさない比較的小さなダークマターハロー中の水素からのシグナルに着目した。我々は、ミニハローからの21cm線を考えることで、小さなスケールでの等曲率揺らぎの振幅についてこれまでの観測の制限を大幅に改善できる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたCMBのBモード偏光から重力レンズ効果を除去し、インフレーション起源の始原重力波の検出可能性の向上については他の研究者らの先行もあり、達成することができなかった。一方で、、21cm線のなど、CMB以外の観測を用いた小スケールの初期揺らぎの観測可能性についてはおおむね当初の計画程度の内容を達成できた。加えて当初計画にはなかったがインフレーションモデルを区別する上で有用となる、初期揺らぎの非ガウス性の検証において重要な成果を上げることができた。これらを総合した結果、上記のような評価が妥当と考える。
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今後の研究の推進方策 |
WMAPやPlanckによるCMB温度揺らぎの全天観測により、大角度スケールにけるCMBパワースペクトルの異方性など一般的なインフレーションモデルでは説明困難なアノマリーが報告されている。他方最近のBICEP2グループによるBモード偏光の初検出により、インフレーションモデルのエネルギースケールはプランクスケールと大きく離れていないことが強く示唆される。このことはインフレーションによる初期揺らぎの生成を通じて、プランクスケールでの未知の物理が大角度スケールでのCMBに影響を与えている可能性を示しているかもしれない。具体的なインフレーションモデルを構築する上で、アノマリーが初期揺らぎ起源か確認することが重要であり、そのためにCMB以外の観測におけるアノマリーの検出可能性が今後の研究方向性の一つとして考えられる。
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