研究課題/領域番号 |
11J05649
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
深谷 肇一 北海道大学, 大学院・環境科学院, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 個体群動態 / 岩礁潮間帯 / フジツボ / 分布域 / ベイズ統計 / 時系列モデリング |
研究概要 |
本研究は潮間帯に生息する固着生物キタイワフジツボを対象に、本種の垂直方向の分布域に沿った個体群動態の空間変異性を明らかにすることを目的として行われた。北海道東部太平洋沿岸の25サイトで10年間、平均潮位を中心に縦1mの潮位幅で本種の被度の変動が調査された。調査プロット内におけるキタイワフジツボの累積出現頻度を調べた結果、設置したプロットが本種の垂直方向の分布域を中央部から周辺部まで幅広くカバーしていることが確認された。本種の被度は平均潮位付近で最も高く、平均潮位から±50cmの高さではかなり低くなっていた。被度の変動の大きさは潮位によって異なっていた。個体群の変動性が潮位によって異なるかどうかを明らかにするため、被度の相対変動性を時系列データから推定した結果、個体群は分布域の中央部にあたる平均潮位付近で最も変動性が低く、逆に分布域の周辺部である潮間帯上部および下部では変動性が高いことが明らかとなった。観察された分布域周辺部での変動性の増加は、分布域の周辺部ほど個体群が環境変動の影響を強く受けることによって生じていることが示唆された。データをロジスティックモデルに統計的に当てはめることによって、個体群増加率に対する密度依存的過程(種内競争)と密度独立的過程(環境変動など)の影響を推定した結果、分布域の周辺部ほど密度独立的過程による確率的な摂動を強く受けることが明らかとなった。これらの結果は、潮位に沿った環境条件の褒化がキタイワフジツボ個体群の変動性に強く影響していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は過去に蓄積されたデータの整理と解析を中心に進められた。その結果、本種の個体群動態の統計的特徴について、潮位に沿った空間的なパターンを明らかにすることができ、また、統計モデルへの当てはめによってパターンの根底にある生態学的過程を推定することができた。これらの結果をまとめて、学会で発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、学会で発表された内容を論文としてまとめ、国際誌に発表する。また、観察された個体群変動性の時空間的な変化の詳細を解明することを目指す。そのために、今回明らかとなった個体群変動性のパターンについて、平均個体群サイズや環境要因との関連性を明らかにしていく。また、観察データと統計モデルによるアプローチでは、個体群の変動性を決定する生態学的なメカニズムを明らかにすることができないため、これまで同じ地域で継続して行われてきた野外実験のデータを用いてこの問題に対処したい。
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