研究課題/領域番号 |
11J05776
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
藤井 一至 独立行政法人森林総合研究所, 立地環境研究領域, 特別研究員(PD)
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キーワード | 土壌有機物 / 溶存有機物 / 放射性炭素 / 有機酸 |
研究概要 |
火山大国である日本には、「黒ぼく土」と呼ばれる有機物の厚く堆積した火山灰土壌が広く分布しているが、過去どのように有機物が蓄積し、今後も有機物を蓄積し続けるのか、或いは分解するのか、将来予測には不確定要素が多く存在する。我が国の森林土壌の炭素貯留能を評価するためには火山灰土壌の過去・現在の有機物分解・蓄積プロセスを解明する必要がある。(1)土壌の有機物蓄積プロセスには、溶存有機物の浸透と枯死根の脱落があり、二つのプロセスでは有機物の分解性・安定性には大きな違いがある。また、(2)供給された有機物の分解性は、有機物の種類とともに土壌微生物の分解能力や鉱物との吸着反応によって大きく異なる。以上二点に関して現在の有機物分解・蓄積プロセスにおける火山灰土壌の特徴を解明した。 過去の火山活動の影響程度が異なる4地点(岩手・茨城県各2サイト)において、(1)現在の土壌有機物の蓄積プロセスにおける溶存有機物の重要性を定量的に評価するため、ライシメーターを現場に設置し土壌溶液を採取した。(2)^<14>Cトレーサーを用いた室内培養実験、現場でのセルロース埋設実験によって士壌微生物による有機物の分解速度及び鉱物による吸着特性を調査した。この結果、(1)リター層からの溶存有機炭素の浸透量は火山灰土壌によっても大きく異なること、(2)土壌中におけるグルコースの分解は極めて速いものの、低分子有機酸の分解は火山灰土壌に含まれる遊離アルミニウム・鉄による吸着によって抑制されることが示された。セルロース埋設実験では、火山灰土壌におけるセルロースの重量減少速度が他の土壌に比べて高いことが示された。以上から、(1)現在の森林環境下ではリター層からの溶存有機物の浸透が重要な炭素の給源となるが、その量的な重要性は多様であること、(2)有機物の分解速度は糖類と有機酸では大きく異なることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
調査地4地点におけるライシメーター設置、土壌溶液の採取に成功した。また、^<14>C標識グルコース、有機酸の分解試験によって、土壌微生物の分解活性が火山灰土壌の吸着能によって大きく異なることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
現在の環境条件における土壌有機物の蓄積プロセスをさらに解明するため、枯死根の脱落の土壌有機物蓄積プロセスにおける重要性を定量的に解明する。また、過去の土壌有機物の蓄積プロセスを解明するため、土壌の炭素蓄積量と火山灰の堆積履歴及び植生変化の履歴の関係を放射性炭素・安定同位体・花粉分析によって調査し、総合的解析を進める。
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