研究課題/領域番号 |
11J05844
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤戸 尚子 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 多型 / PSMB8 / 平衡選択 / 免疫プロテアソーム / MHC領域 / ポリプテルス / 共進化 / 獲得免疫 |
研究概要 |
本研究は、有顎脊椎動物のPSMB8遺伝子に見られる二型の進化機構の解明をテーマにしている。PSMB8遺伝子には、切断特異性の異なると考えられる二系統の遺伝子(A系統とF系統)があり、これらはサメやゼブラフィッシュ、ニジマスなどで保存されているが、サメではパラログとして、ゼブラフィッシュではアリル(対立遺伝子)として存在することが知られており、その進化過程は非常に興味深い。本研究では平成23年度以前に、条鰭類の中で最も古くに分岐したとされるポリプテルスからこの二系統の遺伝子を単離し、これらがアリルであることをゲノムPCRにより示していた。平成23年度には、ニジマスを用いて、同様にこの二系統の遺伝子がアリルであることを示した。ゼブラフィッシュに加え、ポリプテルス、ニジマスにおいてもこれらの遺伝子がアリルであるという結果は、この二系統の遺伝子が、ポリプテルスの分岐した約4億年前から今日まで平衡選択によりアリルとして保たれてきたことを示唆する。しかしこれほどの長期にわたって保存されてきた多型の例はこれまで知られておらず、集団遺伝学分野の研究者には本研究の主張は受け入れられていない。本研究では二系統の遺伝子がアリルであることをより直接的に示すこと、及び長期にわたるアリルの維持を可能にしているゲノム上の基盤を明らかにすることを目的として、二系統のPSMB8遺伝子の存在するポリプテルスMHC領域の塩基配列解読に着手した。現在、F系統ついて、約140kbのBACクローンを読了した段階である。その結果、ポリプテルスのMHC領域はメダカやゼブラフィッシュなどの既によく研究されている硬骨魚のMHC領域とは遺伝子の並び方が異なることが明らかとなった。ポリプテルスは硬骨魚で起きたとされるゲノム倍化以前に分岐した動物であるとも言われており、MHC領域の構造が他の条鰭類とは根本的に異なる可能性がある。又、軟骨魚類全頭類に属するギンザメ、及び分岐の早い条鰭類であるチョウザメのPSMB8遺伝子の単離、遺伝子全長の配列決定も行った。全頭類からは二つのタイプのPSMB8遺伝子が得られたが、系統解析の結果これらはいずれもF系統に属することが判明し、PSMB8潰伝子の二型の消失、再生が有顎脊椎動物全体に及んでいることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有袋類、単孔類についてのPSMB8遺伝子のFタイプアリルの探索も当初研究計画に盛り込まれていたが、Fタイプが見つからず、遺伝的に離れたサンプルを多数得なければならない事態となったため、より中心的な興味の対象である、二系統のPSMB8遺伝子の進化機構の解明にエネルギーを多く注いだ。構造の分かっていなかったポリプテルスMHC領域について、上位の硬骨魚とは異なる構造を持つことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では引き続き、ポリプテルスのA系統のPSMB8遺伝子近傍の領域の配列決定を行う。又、比較解析のため、ゼブラフィッシュについても二系統のMHC領域配列を解読を行うよう研究計画を変更した。データベースに登録されているゼブラフィッシュMHC領域中のPSMB8遺伝子はA系統であるため、F系統のPSMB8遺伝子近傍の配列を解読する。キャピラリーシークエンサーでこれら全配列を決定するのは相当な時間がかかる思われるため、ゲノム支援による援助を申請している。
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