研究概要 |
Si LSIにおけるMOSFETにおいて,素子微細化に伴う顕著な短チャネル効果が問題となっている。これに対し,断面寸法が数~十数nmとなるSi細線MOSFETが短チャネル効果耐性の高さから注目されている. Si細線は,リソグラフィと反応性イオンエッチング(RIE)により形成されることが多いが,本手法により作製した細線は,リソグラフィ起因の太さの揺らぎや,RIE起因の側壁ラフネス・ダメージを内包している.これらはクーロン閉塞やキャリヤ移動度低下を引き起こす可能性があり,これらを除去する必要がある. この目的に対して,本研究では塩化水素(HCl)ガスによる化学エッチングを提案した.本研究の第一段階として,低速エッチング条件におけるHClガスエッチング機構の検討により,ナノ構造への応用可能性を調べた.大気圧,1000-1100℃,HCl0.12%以下(水素希釈)において,ベアSiの低速エッチング(<3nm/分)が得られ,エッチング後表面のRMSラフネスも0.08nm以下と良好であった.しかし,実験・シミュレーションの両面から,エッチング律速過程が反応生成物の気相拡散であり,エッチング速度のSi開口部面積・密度依存性が強く,十分な制御性が得られない可能性が高いことを明らかにした.HClガスエッチングをナノ構造に適用するためには,プロセス温度または圧力の低下が必要であることを見出した. また,Si細線の平坦化手法として水素アニールが報告されているが,アニール後のSi表面のアニール圧力依存性は十分わかっていない.本研究ではバルク基板を用いた実験から,圧力が100Torrを超えると(111)面にステップバンチングが生じることを見出し,(100),(110),(111)といった基本指数面の同時平坦化の実現には圧力の最適化が重要であることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度の研究計画の提案においては,塩化水素(HCl)ガスエッチングおよび低過飽和度エピタキシャル再成長による細線の平坦化を提案した.これらの研究は両方とも実施していたが,研究遂行途中において,実験装置に不具合が生じた.修復を試みたが,本年度内の装置復旧が困難であった.このため,表面平坦化プロセスの確立に大幅な遅れを生じてしまった.加えて,Si細線を加工するための反応性イオンエッチング装置にも不具合が発生し,その原因究明や状態回復,加工条件の再確立に多くの時間を費やす必要があった.これらの理由により,計画していたデバイスの作製・評価まで到達できなかった.
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今後の研究の推進方策 |
Si細線の表面平坦化および構造制御プロセスに関する本研究の目的は,平坦化されたSi細線における表面ラフネス散乱の低減効果や太さ揺らぎ起因のクーロンブロッケード現象の有無,そしてキャリヤ移動度を支配するキャリヤ散乱機構の特定といったキャリヤ輸送の物理現象を明らかにすることである.HClガスエッチングやエピタキシャル再成長といったプロセスはこれらを実現する手段として提案したものである.そこで,研究計画を変更することになるが,次年度以降は表面平坦化プロセスとして水素アニールを採用し,当初の目的を達成するために研究を遂行していくこととした.(既に本年度からその一部を実施している.)Siのナノワイヤの水素アニールによる平坦化はすでに複数の機関から報告があるが,本プロセスを適用し,上述した点に着目して輸送現象の研究を実施した報告は非常に僅かであり,未だ非常に興味深い学術的課題である.
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