研究概要 |
本研究では、光励起状態での構造変化を精密に組み込んだ分子設計により、斬新な光機能性分子の創製を目指す。 まず、光励起状態においてねじれた構造から平面な構造への構造変化に由来して特異な機能性を発現するヘテロール化合物の開発を目的とし、立体反発の小さなチアゾリル基もつテトラアリールチオフェンを設計、合成した。テトラアリールチオフェン誘導体は、励起状態における構造最適化の結果、励起状態では、4つのアリール基のうち3つが平面構造へ、1つがねじれ構造へと変化し、溶液状態の蛍光特性は周辺アリール基の種類に依存せず、期待した物性は発現しなかった。しかしながら、4つのチアゾリル基をもつ誘導体は、結晶状態と粉末状態において蛍光特性の顕著な変化が発現するメカノクロミズムを示すことを見出した。X線結晶構造解析、粉末X線回折および赤外分光の測定により、すりつぶすことで結晶状態における水素結合ネットワークが崩れ、水素結合によるπ共役骨格への電子的摂動が消失した結果、メカノクロミズムが発現することを明らかにした。この成果は、メカノクロミズム特性を発現する新たな分子の設計指針になるとともに、固体状態における電子構造の制御の可能性を示した。 また、分子内配位構造を利用した4配位ホウ素を含むπ共役化合物は、大きな吸収特性の変化を伴うフォトクロミック特性を示すことが報告されている。今回、分子内配位構造をもつNHCボラン部位を導入したπ共役化合物を設計、合成した。光照射によりボラビシクロ[4,1,0]ヘプタ-2,4-ジエン骨格をもつ化合物への光異性化反応が進行することを見出した。励起状態での構造最適化の結果、励起状態においてホウ素上の置換基同士が立体的に近づくことから、転位反応が進行することが示唆された。この成果はNHCボラン誘導体としての新たな反応性を示すとともに、π共役骨格を修飾する新たな手法を示す結果である。
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