研究課題
磁気モーメントを用いた近藤効果は量子臨界現象や重い電子超伝導を始めとした様々な興味深い現象の起源となっていることで知られている。しかし軌道自由度を用いた場合何がおこるのかはよくわかっていない。鉄砒素系超伝導体では軌道ゆらぎが電子間引力の起源として議論されている。しかしd電子系では軌道自由度がスピンや電荷自由度と一体となっているため複雑で興味深い現象が現れる反面、起源を理解するのは難しい。一方f電子系では立方晶Pr化合物のΓ_3状態など、軌道(四極子)自由度のみをもつ状態をとることがある。我々が研究対象としているPrTr_2Al_<20>(Tr=Ti,V)は立方晶Γ3結晶場基底状態をとり、励起状態も60K(Ti),40(V)と十分離れており、また四極子転移をT_Q=2.0K(Ti),0.6K(V)で示すため四極子の研究に最適な系である。さらにΓ3系で初めて電気抵抗率に近藤効果を示す混成の強い系である。特にPrV_2Al_<20>ではT_Q<T<~10Kの温度で異常な金属状態が観測され、四極子近藤効果の可能性が高い。本年度の研究において、我々は非常に高純度なPrTi_2Al_<20>の単結晶が0.2Kの極低温において、超伝導になることを見出した(文献[1])。これまで超伝導が発見できなかった理由としては、(1)この超伝導は非磁性不純物に弱く高純度なサンプルが必要(2)臨界磁場が小さいために残留磁場を排除した精密な測定が必要などの理由が考えられ、本研究ではこれらの課題が克服され超伝導発見に至った。この超伝導はT_Q=2.0Kの強四極子秩序相内で起きており、四極子自由度は凍結していると考えられるが、電子比熱と臨界磁場から求められる有効質量が電子質量の16倍程度に増大しており、伝導電子と四極子の混成の影響が現れている可能性がある。さらに興味深いことにこの物質に圧力を加えると混成が強まり、約8GPaの高圧で超伝導転移温度が約1Kまで上昇し、有効質量が電子質量の100倍にまで増大する(文献[4])。この圧力で四極子転移温度の減少が観測されていることから、四極子秩序の量子臨界現点に近づいた可能性が考えられる。四極子秩序の量子臨界点に関する研究は理論的にも実験的にもこれまで全くなく、非常に画期的な成果である。さらに四極子ゆらぎが超伝導対形成に寄与している可能性があり、全く新しい超伝導である可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
PrTi2Al20の純良化に成功し、極低温下での精密な物性測定によりこの物質が強四極子秩序相内0.2Kで電子質量の16倍の準粒子質量をもつ重い電子超伝導を示すことを発見した。さらに上床研究室との共同研究において約8GPaの圧力下で、PrTi2Al20は四極子秩序温度の減少と同時に、超伝導転移温度の増大(~1K)、及び有効質量の増大(~100m_O)を見出した。これらの結果は四極子秩序の量子臨界点に近づいた可能性を示唆しており大変興味深い。
PrTi2Al20の常圧極低温度での比熱・帯磁率を詳細に測定することにより常圧での超伝導特性を明らかにする。PrTi2Al20の超伝導は非磁性不純物に弱く異方的超伝導の可能性がある。PrV2Al20はPrTi2Al20より混成が強く,さらに重い電子超伝導が発現する可能性が高いが、結晶の乱れによりそれが妨げられている可能性が非常に高い。従ってPrV2Al20の純良化を行なう。
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