研究課題/領域番号 |
11J05914
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中塚 宏志 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 触媒的不斉水素化 / ドナーアクセプター二官能性触媒 / ケトン / 機構解明 / ルテニウム / 遷移金属錯体 / 置換基効果 / CH-π相互作用 |
研究概要 |
ケトン類の不斉水素化は最も基本的かつ重要な反応の一つであるが、未だ万能といえる触媒はない。ドナーアクセプター型二官能性機能によるカルボニル基の活性化を基軸に、配位子に立体的・電子的特性をもつ配位原子を組み入れることによって、問題解決を目指した。 まず、sp^2Nsp^3NH混合系四座配位子Ph-BINAN-H-Py/Ru触媒系を用いる芳香族ケトン類の不斉水素化の機構解明をおこなった。この配位子は、3,3'位に導入されたPh置換基によりcis-α選択的にオクタヘドラル錯体を形成することが期待される。実際にPh-BINAN-H-Py/Ruのジカチオン性錯体を合成し、それぞれ結晶中、溶液中でcis-α構造をとっていることを確かめた。得られた構造情報と置換基効果を調査することで、2カ所のCH-π相互作用がエナンチオ面選択性に影響することを明らかとした。 並行して、鎖状PNN型配位子BINAN-Py-PPh_2(2'-(ジフェニルホスフィノ)-N-(ピリジン-2-イルメチル)-1,1'-ビナフチル-2-アミン)を用いる触媒系の開発をおこなった。まず、標的配位子を10gスケールで合成した。fac配位特異的なベンゼンを補助配位子とすることで fac-[Ru(C_6H_6)((R)-binan-py-PPh_2)](BF_4)_2を定量的に合成した。検討の結果、ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いることで、そのfac構造を維持したまま定量的にベンゼン配位子を除去できることを見いだした。種々検討した結果、この錯体は基質濃度1M、水素圧100atm、基質触媒比1000、t-C_4H_9OK濃度10mM、メタノール溶媒、反応温度25℃、反応時間24hの条件下、様々な立体要請度の高い官能性/非官能性ケトン類を定量的に不斉水素化できることがわかり、基質触媒比は10000、エナンチオマー比は99:1に及ぶ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ケトン類の水素化は最も重要な反応の一つである。高性能触媒の開発研究は国際的競争状況にある中、窒素系配位子を用いる初めての例において、機構に関する詳細情報を得た。新規配位子の開発により、従来法に比較して基質汎用性高く、立体的に要請度の高い様々なケトン基質に応用できる触媒系を構築できた。ともに錯形成における高い構造選択性が、高機能発現に重要であると考えている。触媒設計に新たな指針を示すものとして注目されよう。
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今後の研究の推進方策 |
Ph-BINAN-H-Py/Ru触媒系における機構解明を継続して進めるとともに、BINAN-Py-PPh_2/Ru系においても機構解明をおこなう。触媒サイクル関連種の合成を試み、サイクル理解の深化を図る。特にヒドリド錯体の観測が目標となる。単離可能な錯体に関しては、分光学的手法により溶液中および結晶中での構造情報を獲得する。それらの実験で得られた各錯体を用いてケトン類の不斉水素化における反応スクリーニングを実施する。活性、選択性を調査し、触媒性能の向上を狙う。また、鎖状三座配位子において、補助配位子を用いることなくfac選択的錯体形成能を付与するべく配位子の開発をおこなう。
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