研究課題/領域番号 |
11J05921
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
菅 唯志 北海道大学, 大学院・医学研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | レジスタンス運動 / 磁気共鳴分光法 / 一酸化窒素 |
研究概要 |
リン磁気共鳴分光法(MRS)を用いて心不全患者の血流制限下レジスタンス運動中の骨格筋エネルギー代謝を測定した。その結果、一般健常者と同等の骨格筋エネルギー代謝の変化が観察された。したがって、血流制限下レジスタンス運動は、一般健常者のみならず心不全患者を含む有疾患者においても有効である可能性が示唆された。 リンMRSを用いたヒト生体内における骨格筋ミトコンドリア機能の評価法として運動中のクレアチンリン酸(PCr)の低下率、PCrの回復時定数および安静時代謝率を運動鍛錬者と非運動鍛錬者を対象として検討した。その結果、安静時代謝率に有意な差はみられなかったが、非運動鍛錬者に比較して運動鍛錬者において運動中のPCrの低下率が低く、PCrの回復時定数が高かった。したがって、運動中および運動後のPCr動態の測定は、骨格筋ミトコンドリア機能の評価法として有用であることが示唆された。 一般健常者を対象として骨格筋ミトコンドリア機能の性差を検討した。その結果、男性よりも女性において骨格筋ミトコンドリア機能が高いことが明らかとなった。これに一致して血流依存性血管拡張反応(FMD)が男性よりも女性において高かったことから一酸化窒素(NO)の生物学的利用能および産生の違いが骨格筋ミトコンドリア機能の調節に関与している可能性が考えられた。 この結果を受けて基礎的研究において骨格筋ミトコンドリア機能におよぼすNOの役割を検討した。その結果、eNOS欠損マウスでは、野生型マウスよりも骨格筋ミトコンドリア機能が低かった。さらに、NOS阻害剤の投与およびeNOSの欠損によるNO産生低下は、運動トレーニング誘発性の骨格筋ミトコンドリア機能の増加を完全に抑制した。これらの結果よりNOの生物学的利用能および産生の増加は、骨格筋ミトコンドリア機能の調節の極めて中心的な役割を担っていることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに心不全患者において血流制限下レジスタンス運動中の骨格筋エネルギー代謝を測定し、一般健常者と同様に有疾患者においても有効であることを明らかにした。しかしながら、本研究は、長期的な血流制限下レジスタンス運動の有用性を明らかにすることを目的としており、今後、有疾患者を対象としたトレーニング介入が必要である。また、血流制限下レジスタンス運動によって骨格筋ミトコンドリア機能が増加するかどうかを検証する必要がある。一方、NOが骨格筋ミトコンドリア機能を調節する重要な因子であることを明らかにしており、血流制限下レジスタンス運動による骨格筋ミトコンドリア機能の適応の機序としてNOの生物学的利用能および産生の増加が関与している可能性を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでにNOが骨格筋ミトコンドリア機能を調節する重要な因子であることを明らかにした。したがって、血流制限下レジスタンス運動による骨格筋ミトコンドリア機能の適応においてNOの生物学的利用能および産生の増加の関連性を含めて、当初の研究計画より広域的に研究を遂行していく必要がある。しかしながら、その点においてヒト生体内におけるNOの生物学的利用能の指標であるFMI)などの評価指標は既に測定可能である。したがって、現時点で研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での問題点はない。
|