研究課題/領域番号 |
11J06027
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小松 直貴 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | FRETバイオセンサー / 細胞増殖 / 抗癌剤 / Ras-ERK |
研究概要 |
本研究では増殖シグナル伝達系の一つ、Ras-ERK系の遺伝子変異がRas-ERK経路阻害剤の感受性に与える影響の解明を目的としている。平成24年度は前年度に構築したFRETイメージングによる細胞増殖率と分子活性の高効率計測系を用いることで、1.阻害剤添加時の癌細胞のERK活性・増殖率の計測、2.阻害剤添加時の癌細胞のS6K活性・増殖率の計測、3.KRas変異細胞の増殖能を制御するPI3K経路因子の探索を行った。その結果、BRaf変異細胞では増殖率とERK活性がほぼ同濃度のMEK阻害剤で抑制された。一方KRas変異細胞ではERK活性が抑制されるMEK阻害剤では増殖率が抑制されなかった。 次にPI3K阻害剤とMEK阻害剤を併用することでKRas変異細胞の増殖率がERK活性と同濃度のMEK阻害剤で抑制された。 すなわちPI3K阻害剤によりMEK阻害剤に対する感受性が増加した。一方、KRas変異細胞におけるS6K活性と増殖率の関係を調べたところ、ERK活性よりもよく増殖率に相関することを見出した。次にPI3K下流因子を阻害剤・shRNAにより抑制した際の増殖能に与える影響を解析したところ、ラバマイシン非感受性のmTORC1活性がKRas変異細胞の増殖能に寄与することを見出した。興味深いことにBRaf変異細胞ではmTORC1活性は増殖能に寄与しないことも見出した。これらの結果はKRas変異細胞がMEK阻害剤に対して抵抗性を有するメカニズムの一端であると考えられる。現在Raf/Ras遺伝子に変異を有さない正常細胞についても解析中である。得られる結果を総合することにより、正常細胞の増殖を阻害せずRaf/Ras変異細胞のみ増殖抑制する阻害剤の種類・濃度の合理的設計につながると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
癌遺伝子の変異が細胞増殖能のERK/mTORC1活性への依存性に寄与することを見出した。また各活性と増殖率との定量的な関連付けを行った。これらは表現型(細胞増殖)と分子活性の定量的な関連付けを行う上で極めて重要であり、達成したことによる意義は大きい。よって研究がおおむね順調に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、 1.正常細胞における細胞増殖、ERK,S6K活性の定量化 2.ERK,S6K活性と細胞増殖を結びつける数理モデルの構築3.学術雑誌への投稿準備・投稿 を予定している。
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