本研究では細胞内シグナル伝達系の一つ、Ras-Raf-MEK-ERK経路の遺伝子変異によりMEK阻害剤感受性に違いが生じる分子機構の解明を目的としている。今年度は細胞増殖率がS6K活性と良く相関することを見出した。またMEK阻害剤添加時のS6K活性レベルがMEK阻害剤抵抗性と良く相関することも見出した。s6K活性が細胞増殖に必要か調べるために、阻害剤処理、siRNA処理、優性劣性変異体の強制発現実験を行った。その結果、S6K活性それ自体は細胞増殖には寄与せず、mTORC1活性が増殖に必要であることが分かった。すなわち、MEK阻害剤はmTORC1を不活性化することで増殖を抑制することが示唆された。MEK阻害剤によるmTORC1不活性化は数時間から1日のオーダーでおきたことから、ERKはmTORC1をリン酸化ではなく遺伝子発現を介して制御している可能性が考えられた。MEK阻害剤誘導性の遺伝子発現を調べるためにMEK阻害剤感受性細胞、および抵抗性細胞にMEK阻害剤を添加、1日後にRNAを抽出し、RNA-Seq解析を行った。その結果、MEK阻害剤によりmTORC1関連遺伝子の大規模な発現変動が見られた。これは感受性細胞で特に顕著であった。なかでもmTORC1の不活性化因子であるTSC2とDEPTORの発現は感受性細胞で大きく上昇し、抵抗性細胞では発現上昇がみられなかった。MEK阻害剤によるこれらmTORC1不活性化因子の発現量がMEK阻害剤抵抗性を決定していると考えられる。以上の結果は現在論文投稿中である。
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