研究概要 |
PINK1とParkinの解析によるパーキンソン病の発症メカニズムの研究において,近年,世界中でミトコンドリア品質に関わる解析に注目が集まっている.PINK1とParkinはパーキンソン病の原因遺伝子として同定され,精力的に研究されたことで遺伝学的な関係が明らかにされた一方,その分子メカニズムには不明な点が多く残されている. 研究代表者はミトコンドリア膜電位低下時のPINK1の分子量の変化に気付き,PINK1の翻訳後修飾に着目した.PINK1がキナーゼであることから,自己リン酸化による制御を受けている可能性をリン酸基アフィニティーゲル電気泳動により検証した.予想通り,PINK1は膜電位の低下に伴い明瞭にリン酸化を受けていることが明らかになった.さらに,PINK1のキナーゼ活性の無い変異体ではこのリン酸化を検出することができなかった,また,このリン酸化は分子間で引き起こされることが分かり,PINK1の自己リン酸化が示された.加えて,パーキンソン病の患者から同定されたPINK1の変異により,PINK1の自己リン酸化の異常を認めることができた.次に,このリン酸化サイトの同定を試みた.LC-MS/MS解析とアミノ酸置換による変異体解析からリン酸化サイトの同定に成功した.このサイトをアラニンに置換しリン酸化されないようにすることでParkinの不良ミトコンドリアへの局在変化は観察されなくなる一方で,酸性アミノ酸への置換によりリン酸化を模倣することでParkinの局在変化を回復することができた.興味深いことに,このサイトは進化的にも保存されていた.これらのことから,ミトコンドリア膜電位低下によるPINK1の自己リン酸化がParkinによるミトコンドリア品質管理機構に非常に重要であることを示した.(論文投稿中)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者は現在,(1)PINK1のミトコンドリアへの局在化のメカニズム,(2)PINK1によるParkinの局在制御メカニズム,(3)Parkinによるミトコンドリア品質の制御の役割を解析している.(1),(3)に関しては計画通りに進展しており,(2)に関して論文投稿中であり計画以上の進展が見られた.
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今後の研究の推進方策 |
研究実績で述べたPINK1のリン酸化がどのように重要であるか,まだ,詳細な解析を行なう必要がある.キナーゼのリン酸化は活性に影響を与える可能性があるので,PINK1精製蛋白質を用いた活性測定を行なう必要があると考えられる. 研究代表者はParkinの基質とミトコンドリアの運命についても解析を行なっているが,現在,培養細胞における内在性Parkinによってユビキチン化を受ける基質を複数同定するに至っている.一方で,これまで過剰発現のParkinによりユビキチン化されたミトコンドリアはオートファジーにより処理されるのみであるとされてきたが,最近ではその他にも外膜蛋白質の分解や外膜の断裂ミトコンドリアの輸送など複数の現象が報告され混沌としている.今後はこれらの現象を踏まえて,内在性のPINK1とParkinによるミトコンドリアへの影響を慎重に検討して行く必要が生じて来た.
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