研究概要 |
パーキンソン病は国内でも患者数が非常に多い神経変性疾患の1つである.PINK1とPARKINはこれまでにパーキンソン病の原因遺伝子として同定されている.本研究ではPINK1とParkinの正常な機能を理解することで,その機能破綻に伴う疾患の発症メカニズムの理解を目的としている.これまでに研究代表者はPINK1がParkinを膜電位の低下した不良ミトコンドリアに局在化させ,そのミトコンドリアを処理する機能があることを示してきた.一方で,PINK1がParkinを局在化させるメカニズムについては詳しく分っていなかった.本年度の研究においてPINK1がミトコンドリアの膜電位低下に伴い,自己リン酸化を引き起こすことがParkinの局在変化に重要であることを明らかにした.さらに患者由来の変異体ではこの機能に異常が生じており,その重要性が伺える.また,これまで不良ミトコンドリアの処理にはPINK1の「量」による制御が重要であると考えられていたが,本研究により「質」の変化も重要であることが明らかとなった.一方で,今回の解析結果から,今後PINK1のリン酸化抗体を作成することで不良ミトコンドリアをモニターできると考えられ,非常に有用な情報を得ることができた.また,LC-MS/MS,細胞生物学と生化学を用いた解析によりParkinの基質が複数の存在している可能性が示唆された.加えて,Parkinの活性化の分子メカニズムに関わる解析にも着手しており,PINK1依存的なParkinのリン酸化とチオエステル中間体を介したユニークな活性化が重要であることを示した(論文投稿中).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者は以前にPINK1の「量」の制御を明らかにしているが,さらにリン酸化という「質」の制御を明らかにした.このことはParkinの局在変化を理解するうえで重要であることが明らかになった.一方で,Parkinの内在性基質の同定を目指して研究を行ってきた.その結果,これまで報告のある複数の基質と同時に新規の基質としてヘキソキナーゼ1を同定し報告を行った.さらに,PINK1によるリン酸化を介したParkinの活性化の分子メカニズムを解析し,現在投稿中である.従って,PINK1の活性化メカニズムが明らかになったことで当初予定していた以上の結果が得られており,計画以上に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
PINK1はミトコンドリアの膜電位の低下によりリン酸化を受けると同時に,巨大な複合体を形成していることが知られつつある.しかしながら,その役割については依然として明らかになっていない.現在,研究代表者はこの複合体の意義について詳細な解析を行なっている.また,Parkinの局在変化を維持するメカニズムは依然として分からないままであり,この複合体とParkinの局在変化の関連について精査することを計画している.
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