有機物エアロゾルはメタンに富む還元的な惑星大気中で光化学反応によって生成されるが、その生成経路は実験的にあまり制約されていない。酸素濃度が増大する以前の原始地球においては、有機物エアロゾル層が反温室効果または間接的温室効果によって地表温度に大きな影響を与えていたことが推測されているが、エアロゾル生成経路の不定性のため、これまで見積もられてきたエアロゾルの生成率や光学的厚みには大きな不定性が内在しているのが現状であった。また近年、太陽系外惑星の大気観測によって、系外惑星においても有機物エアロゾルの存在が示唆されており、大きな注目を浴びている。そこで、(1)エアロゾル生成経路の制約、及び(2)様々な大気組成、UVフラックス入射を持つ惑星大気へ応用可能な実験データの取得、を目的として、室内実験および光化学計算を行った。実験結果から、エアロゾル生成率はUVフラックスの1次関数的に増加することがわかった。またエアロゾル生成率のCH4/CO2ガス比依存性を調べた結果、CH4/CO2比が1を下回ると生成率は急速に低下することがわかった。この実験結果を解釈するため、1ボックス光化学モデルを構築し、実験条件における反応経路を解析した。その結果、ベンゼンがエアロゾルの生成を律速していることがわかった。一方で、過去の光化学モデルでエアロゾル生成反応に寄与すると仮定されていたポリンの重合反応は、エアロゾル生成率とあまり相関が良くないことがわかった。原始地球でのエアロゾル生成率を見積もると、過去の研究による見積もりより2桁程度小さくなることがわかった。この理由は、先行研究ではエアロゾルの生成に直接関与しない分子も含めての生成率を計算していたため、遠紫外線によるエアロゾル生成量を過大評価していたことが原因である。これらの結果から、原始地球においては遠紫外線で生成されるエアロゾル層は光学的に薄く、反温室効果も間接的温室効果も聞かないことが推測される。一方でメタン・二酸化炭素・水・エタンなどの他の赤外活性気体による温室効果ガスが卓越していたことが示唆された。
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