研究概要 |
データ系列をより系列に置き換えるデータ圧縮と,通信路を通じて得られたノイズを含む系列から元の系列を復元する通信路符号化は,情報理論における重要なテーマの1つである.これらの問題を含め,情報理論においては理論限界を達成る実用的な符号化法が知られていない情報伝送モデルが数多く存在し,本研究課題の最終的な目標は,そういった様々なモデルに対して実用的かつ最適な符号化法を提案することであった. 本年度の研究においてはpolar符号を用いた非対称通信路の符号化法を主に扱った.polar符号は対称な通信路においては理論隈界を漸近的に達成可能な符号であるが,一方で現実の通信路は必ずしも対称とは限らない。ここで従来の方法で非対称通信路の符号化を行う場合は対称な場合に比べて計算量が著しく増加することが知られている.そこで本研究では無歪み圧縮の手法を応用した符号化法を新たに提案し,対称の場合とほぼ同じ計算量で理論限界を達成可能なことを示した.さらに,これらの結果を有歪み圧縮にも応用し,非一様情報源・非対称歪み基準のもとでも対称モデルとほぼ同計算量で理論限界を達成可能な符号化方式を新たに提案した. また本年度は機械学習の分野である多腕バンディット問題に関する研究も並行して行った.多碗バンディット問題とはスロットマシンをプレイするギャンブラーのモデルであり,相対エントロピーの最小化といった情報理論と非常に近い枠組みをもつ。本年度の研究では,二の問題において理論隈界が達成可能かどうか従来知られていなかった確率分布モデルに対して新たに漸近最適な戦略を提案し,また有限の試行数でも理論限界に近い性能を達成できることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては,非対称モデルに対して無歪み圧縮を応用するというアイディアをLDPC符号に応用することが挙げられる.LDPC符号は短い符号長で理論限界に近い性能が出ることが経験的に知られており,非対称モデルにおいてもpolar符号に比べ高性能となることが期待される.一方でpolar符号の場合と異なり,LDPC符号は無歪み圧縮に用いた場合の性能が非常に悪いという問題があるので,この部分については他の可変長符号を用いることが考えられる.
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