研究課題
生物のDNAは、紫外線や放射線などにより日々損傷を受けている。そのなかでもDNAの二重鎖切断損傷は、遺伝情報を失う危険性の高い損傷であり、速やかに修復される必要がある。我々生物には、二重鎖切断損傷を修復する重要な経路のひとつとして相同組換え修復が存在する。これまでに申請者は、相同組換え修復に関与することが示唆されていたヒトSPF45タンパク質の機能を明らかにするために、リコンビナントタンパク質として高純度に精製する系を確立し、さまざまな生化学的解析を行なった。その結果、ヒトSPF45が相同組換え修復中間体であるHolliday junction DNAに優先的に結合することを明らかにし、さらに点変異体解析からDNA結合領域を同定した。また既知の相同組換え修復タンパク質であるRAD51Bと相互作用することを明らかにした。これまでの解析でヒトSPF45はDNA結合タンパク質であり、相同組換え修復に関与することを示したことから、SPF45の染色体上での機能を明らかにすることは必須である。真核生物のゲノムDNAはヒストンタンパク質に巻き付いたヌクレオソームを基本単位として高次に折り畳まれたクロマチン構造を形成している。そこで、ヒトSPF45の機能を明らかにするためにはヌクレオソーム上での解析が必須であるため、まずテンプレートとなるヌクレオソームを試験管内で再構成し、生化学的解析およびX線結晶構造解析を行なった。その結果、ヌクレオソームに含まれるヒストンを相同性の高いヒストンバリアントに置換すると、ヌクレオソームの安定性が著しく変化することが明らかとなった。これによって、ヌクレオソームが凝集したヘテロクロマチンや、脱凝縮したユークロマチンを試験管内で再構成することができる可能性があり、ヌクレオソームテンプレート上でのSPF45の機能解析をする上で非常に重要な知見が得られた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的はDNA結合タンパク質であるヒトSPF45タンパク質の染色体上での機能を明らかにすることである。したがって本研究において、テンプレートとなるヌクレオソームを試験管内で高純度かつ大量に精製し、生化学的解析やX線結晶構造解析により、さまざまな種類のヌクレオソームテンプレートを調製できる可能性を示したことは、今後のSPF45の機能解析を行なうために十分な結果が得られたと考えられる。
今後の方針として、ヌクレオソーム上でのSPF45の機能を明らかにするために、まずさまざまな種類のヒストンを含むヌクレオソームの調製、およびそのX線結晶構造解析をする必要がある。さらに、調製したさまざまなヌクレオソームとSPF45との共結晶化、およびX線結晶構造解析を試みる。これによって、これまでほとんど明らかにされていないヌクレオソームとタンパク質の複合体の立体構造を明らかにできれば、ヌクレオソーム上でのSPF45の機能を明らかにすることができると考えられる。
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Biochemistry
巻: 50 ページ: 6797-6805
10.1021/bi200828g