研究課題/領域番号 |
11J06185
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
芳賀 淑美 独立行政法人理化学研究所, 糖鎖代謝学研究チーム, 特別研究員(PD)
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キーワード | 糖鎖 / イメージング / FRET / アジド化合物 / グルコーストランスポーター / クリック反応 / GFP |
研究概要 |
糖鎖関連遺伝子のノックアウトマウスなど遺伝子改変動物では、個体が致死性を示すなど様々な病態が見られる。その原因は、細胞膜上の受容体などの特定の糖タンパク質上の微細な糖鎖構造の違いによることが明らかになってきた。すなわち、従来のように糖鎖構造を細胞全体で見るだけでなく、特定のタンパク質上の特定の糖鎖構造を解析する必要性が高まっている。そこで簡便かつ特異性の高い糖タンパク質イメージングツールを開発し、糖鎖が生体に及ぼす影響を生細胞において明らかにすることを目的とし、研究を行った。 特定糖タンパク質上の特定の糖鎖修飾を可視化するために、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)法を用いた方法での視覚化を試みた。最初のモデル系として、N結合型糖鎖を一か所のみ提示しているタンパク質(グルコーストランスポーターGLUT4)で検討を行った。シアル酸やフコースなど、特定の糖鎖を蛍光ラベルするための「タグ付糖」はアジド基を有するアジド糖を使用した。標的のタンパク質はGFPを用いてラベル化し、糖鎖の蛍光標識に関しては、GFPとFRETを起こすような蛍光物質を選択した。 まずは固定細胞において糖鎖依存的なFRETシグナルの検出を検討した結果、FRETドナーであるGFPが細胞内・FRETアクセプターである蛍光ラベル糖が細胞外と、細胞膜を挟んでいるにも関わらず、FRETシグナルを観察することに成功した。また、糖鎖欠損変異体を用いることにより、得られたシグナルが糖鎖構造特異的であることが示された。 さらに、生細胞でも使用可能な、蛍光クリックプローブを合成し、生細胞におけるFRET観察にも着手した。その際、モデルタンパク質として用いたGLUT4が糖鎖構造依存的にインスリン応答経路に運ばれることを発見した。糖鎖の微細な構造がタンパク質の機能や輸送に大きく影響することを示す好例を自ら示すこととなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
標的タンパク質のうち特定糖鎖を持つフォーム(glycoform)を顕微鏡下で観察する技術基盤はすでに確立されつつある。固定細胞での条件検討から一歩進み、すでに生細胞を用いたイメージングにも着手、特定の糖鎖をもつ標的タンパク質の細胞内動態解析達成の手応えをつかんでいる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、生細胞での特定の糖鎖をもつ標的タンパク質の細胞内動態解析を行う。モデルタンパク質GLUT4のインシュリン応答において、各時間におけるGFP(GLUT4分子全体)とFRET(特定の糖鎖構造をもつ分子種)の比を測定し、その取り込み速度に違いがあるかを検証する。実際に糖鎖構造によって違う挙動を示すこと(特定の修飾を受けた分子種はエンドサイトーシスが速い/抑制される、レクチン等外部因子との相互作用の差異など)を明らかにする。通常よく用いられる共焦点レーザー顕微鏡だけでなく、TIRF(全反射照明蛍光顕微鏡)を用いたイメージングにも挑戦し、詳細なキネティクス解析を試みる。
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