研究課題
近年、特定の糖タンパク質上の糖鎖構造がタンパク質の物理化学的、あるいは生理的性質に影響を与える例の報告が増えてきている。特に病態の変化に伴う糖鎖構造の変化と、それによって引き起こされる動態や安定性の変化は数多く報告されている。しかし、現在そのような糖鎖依存的な動態を可視化する技術が存在しないために、多くの分子機構は依然として明らかになっていない。そこで簡便かつ特異性の高い糖タンパク質イメージングツールを開発し、糖鎖が生体に及ぼす影響を生細胞において明らかにすることを目的とし、研究を行った。開発した手法は、目的のタンパク質に融合させた蛍光物質と、糖鎖に結合させた蛍光物質観でFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を観察することで、特定の糖タンパク質における糖鎖付加状態の差異を明らかにするものである。本年度は、生細胞での特定糖タンパク質上の特定の糖鎖修飾の可視化と、ライブセルイメージングを行った。HeLa細胞に、GFPを融合させたグルコーストランスポーターGLUT4を発現させ、シアル酸にタグを導入後、インスリンで刺激をしてGLUT4-GFPを細胞膜に集積させた。Alexa555で標識した生細胞用のクリックプローブを反応させた後、インスリンを除くことでエンドサイトーシスをスタートさせた。インキュベーター付の共焦点レーザー顕微鏡を用いてタイムラプス観察したところ、生細胞でも特定の糖鎖構造をもつ標的の糖タンパク質を可視化できることが示せた。さらに、GLUT4の細胞内取り込みのキネティクス解析を行うために、細胞表層を観察できる全反射照明蛍光顕微鏡(total internal reflection fluorescence microscopy : TIRF)を用いた実験も行い、糖鎖構造によって取り込み速度が異なる可能性があることを示唆するデータを得ることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究によって、糖鎖構造の違いによって引き起こされる特定タンパク質の細胞内動態のイメージング解析をする技術基盤の基礎が確立した。さらに、これまで報告のない、脂質二重膜を介したFRETを検出することに成功した。
引き続き、生細胞での特定の糖鎖をもつ標的タンパク質の細胞内動態解析を行う。その際、生細胞の表面の糖鎖を標識したラベル化剤が細胞内に入らないことを、消光剤を用いて確認する。さらに、FRET検出におけるタンパク質のラベル化技術や、FRET検出に最も適したタンパク質の蛍光標識の部位について、さらなる検討を行う。GLUT4をモデル基質としてタグを細胞外ドメインに導入し、インスリン応答による細胞内局在変化を指標にタンパク質の機能を損なわないタグを選択する。その後、糖鎖との物理的距離を近く設定することでFRET効率の大幅な向上を試みる。
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Nature Communications
巻: 3 ページ: 907
10.1038/ncomms1906
J Colloid Interface Sci
巻: 393 ページ: 257-263
10.1016/j.jcis.2012.10.056
http://www.rikenresearch.riken.jp/eng/research/7084.html
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2012/120620/detail.html