研究課題
生体防御において重要なHuman Leukocyte Antigen(HLA)は、Cytotoxic T Lymphocyte(CTL)上のレセプター(TCR)に様々な抗原ペプチドを提示し、ペプチド特異的にCTLの感染細胞殺傷能を活性化する。我々は抗原ペプチドによるHLAの安定性の調節がHLAのCTL活性化能と関連があることを明らかにしてきたが、さらに、抗原ペプチドがHLA全体の動的構造変化に及ぼす影響を解明することで安定性創出の原理を明らかにするべく、重鎖の揺らぎをNMRにより測定した。一年目の目標であった、NMRの測定に耐えうる高収量のHLAの獲得が達成された。また動的構造解析を行うための緩和分散法による測定、シグナル帰属用の三次元測定も達成された。そして、当初は安定型のHLAを形成するペプチド複合体についてのみ測定を行う予定であったが、不安定型のHLAについても測定を進めることができた。円偏光二色性を用いたTmの解析によって、それぞれ安定、不安定とされている、二つのペプチドHLA複合体について動的構造解析を行ったところ、図のマゼンタで示される残基において、揺らぎが観測された。二つに共通することとして、ペプチドと重鎖が結合する溝内に揺らぐ残基が集中していた。特に、ペプチド認識に重要である二位と末端の認識に関わる残基が揺らいでいることが明らかとなった。一方、二つの構造の差異として、より安定な複合体であると報告されているペプチドHLA複合体の方が、多くの残基が揺らぐことが確認された。HLAはより多くの残基を揺らがせることで耐震建築のように、外部から受けるエネルギーを発散し、安定化すると示唆される。より具体的に安定化のメカニズムを明らかにするためには、さらに緩和分散法を用いて、揺らぎの温度変化測定等を行う必要があると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
当初予定していた安定型のHLAに対してのみならず、不安定型にも動的構造解析を適用し、二者の比較からHLAの安定性制御に関する新規な知見を得ることができた。
物理化学的な解析において重要な知見を得ることができ、重点的に測定と解析を進めてきたため、もう一つの目標である、細胞上でのHLAの挙動を観察し、物理化学的な性質と結びつける研究関しては現在進めることができていない。2年目はこちらについても進めて行きたいと考える。
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Science Signal
巻: 5 ページ: Ra5
DOI:10.1126/scisignal.2002056