研究課題
本年は主に、(1)前年度に採取された津波石ハマサンゴ試料の年代測定およびその解析、(2)過去に石垣島から採取された長尺ハマサンゴ試料の骨格中のSr/Ca比測定による古水温の復元、(3)長期飼育されたハマサンゴ試料の骨格中のSr/Ca比分析による温度依存性の検証を行った。以下に詳細をそれぞれ記す。(1)昨年度に先島諸島において採取された津波石ハマサンゴ試料について、昨年度は約100個の試料について14C年代測定を行っている。今年度はさらに20個ほどの試料を追加で分析した。これらの結果を統計学的に解析することで、この地域で初めて津波再来周期の推定を行うことができた。また、簡単な解析計算により、過去の津波の規模の推定を行うことができ、今回推定した過去の津波は、建物や人的被害を及ぼすのに十分な規模であることが示された。今回の結果から、例えばボーリングによる砂状の津波堆積物が採取できないような地点でも、津波石試料を選択的に採取し多くの年代測定結果を統計的に解析することで、過去の津波発生時期を推定し得ることが示唆された。今回の結果はGeology誌に結果を投稿中である。(2)1998年に石垣島から採取された、1590年頃から約195年分を有する長尺ハマサンゴコア試料について、昨年度は1680年頃から約100年にわたる古水温の復元を約2週間~1ヶ月の解像度で行った。今年は、その結果について、連続性が悪い箇所や、再測定が必要な箇所について追加で分析を行った。結果については現在解析中である。(3)6年以上にわたり水温や塩分などをモニタリングした水槽内で飼育したハマサンゴ骨格中のSr/Ca比を分析することで、Sr/Ca比-水温関係式の検討を行った。その結果、酸素同位体比は群体内での成長速度変化にも影響を受けていたが、Sr/Ca比は群体内・群体間共に成長速度依存性はなく、酸素同位体比に比べより強固な水温のプロキシであることが示された。この結果は、Earth and Planetary Science Lettersに受理・印刷された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、昨年度に採取された津波石ハマサンゴ試料について追加の14C年代測定の実施、およびハマサンゴ骨格試料のおおよそ100年間分のSr/Ca比による古水温復元記録の復元について、抜けのない連続的な水温復元の実施を目的に設定していた。結果として、おおよそ20サンプルほどの追加の14C年代測定を行い、前年度までの結果と合わせて国際誌に投稿・改訂中である。また、追加のサンゴ骨格中のSr/Ca比分析を行うことで、連続した100年間の古水温復元記録を完成させることができた。
今後は、古津波記録復元の結果については、現在投稿中の論文を改訂し受理されることを目指す。また、現在までに琉球列島における津波石を用いた過去の津波災害記録の復元例をコンパイルし、自身の研究成果と合わせることで、単著での総説の作成を進めて行く予定である。一方、古環境復元においては、100年間分の古水温復元記録を解析し、国際誌に投稿することを目指す。また、今回古環境復元を行う際に習得してきた技術を用いて、様々な地域で採取されたサンゴコア試料の分析を担当することで、共同研究として発展させていくことを考えている。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Earth and Planetary Science Letters
巻: 362 ページ: 198-206
10.1016/j.epsl.2012.11.046
http://ofgs.aori.u-tokyo.ac.jp/member-jhtml#araoka