研究課題/領域番号 |
11J06260
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田尻 怜子 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 昆虫クチクラ / クチクラタンパク質 / 形態 |
研究概要 |
本研究の目的は、昆虫の外骨格(クチクラ)形態を司ると考えられている多数のクチクラ構成タンパク質について、生体内での個々の機能を明らかにすることである。キイロショウジョウバエを材料として研究を進めている。 前年度に実施したスクリーニングの結果、約三十のクチクラ構成タンパク質についてクチクラの形態の制御への関与が示唆された。今年度はそのうち、幼虫・蛹の体表を覆うクチクラの形態制御に重要な役割を果たすCG11142とCG2560に注目し、各タンパク質がクチクラ形態を制御する機構の解明を目指した。 野生型の幼虫は蛹化時にクチクラを前後軸方向に収縮させる。CG11142の機能欠損変異体においてはこのクチクラ収縮がほとんど見られなかった。一方、CG2560の機能欠損変異体の幼虫および蛹は、野生型よりも前後軸方向に短縮した体型を示した。これらのクチクラ形態の差異を生じさせる構造的機構を探るために、走査型電子顕微鏡を用いて幼虫クチクラの微細構造を観察した。その結果、野生型の幼虫のクチクラの内部表面には高さ約8umの畝状構造が前後軸方向に沿って並んでいることを見出した。CG11142機能欠損変異体の幼虫においてはこの畝状構造の高さ、密度ともに低下していた。逆にCG2560機能欠損変異体の幼虫では、野生型と同程度の高さの畝状構造が、野生型よりも高い密度で観察された。各タンパク質の強制発現によってそれぞれの変異体の表現型がレスキューされることを確認した。 これらの結果より、野生型幼虫のクチクラの畝状構造は、蛹化時に前後軸方向の収縮力を生じさせるバネのような働きをもつと推測される。二つのタンパク質はこの畝状構造の形成の制御を通じて幼虫の体型全体に影響を及ぼすと考えられる。 以上のように本年度は、個々のクチクラ構成タンパク質が、クチクラの微細構造の制御を通じてクチクラのマクロな形態をつかさどる機構に迫ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特定の時期・部位のクチクラ形態の制御に関与する複数のクチクラ構成タンパク質を同定した上で、個々のタンパク質がクチクラの微細構造の制御を通じてクチクラのマクロな形態をつかさどる機構に迫ることができた。各タンパク質コード遺伝子の機能欠損変異体および強制発現系統を作成し、前者の表現型を後者がレスキューすることを確認した。今後の研究計画の前提となるこれらの結果が揃ったことから、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の通りに研究を進める。 まず、GFP等の標識の付加によって、各タンパク質産物の局在を解析する。各タンパク質のアミノ酸配列から特徴となるモチーフを探索し、それぞれのモチーフの機能を強制発現系によって解析する。複数のタンパク質の間の機能的相互作用を解析するために、多重RNAi、多重強制発現、相互のレスキュー実験を行う。
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