研究課題
本研究は、昆虫の体内から寄主植物のDNAを抽出し、DNAバーコーディングによって、東南アジア非季節性熱帯林の植物-植食性昆虫の相互関係と、その関係を形成する要因の解明を目指す。昆虫の胃内容物に残った少量の寄主植物DNAを同定する技術には問題点が多く、こうした技術をもとに植食者と植物関係を明らかにした研究はこれまでほとんどなかった。そこで平成23年度は、技術的な問題を解決し、新しい実験プロトコールを確立した。また、調査地で、植食性昆虫(ハムシ科成虫)の集中的なサンプリングを実施した。平成24年度は、その実験プロトコールをもとに、集めたハムシ科成虫約100個体の寄主植物DNAの抽出・解析を行った。さらに、既存のDNAリファレンスデータベースを使って、得られた植物塩基配列がどの植物ファミリーに属するのかを調べ、ハムシ科1種が利用する植物ファミリーの幅を推定した。その結果、ハムシ科11種のうち9種で、複数の植物ファミリーを餌植物として利用していることを明らかにした。特に多い種では、少なくとも11科の植物種を利用していることが示され、先行研究でわかっている広食性昆虫(2~3科の植物を利用)と比べても顕著に多い植物を利用していることがわかった。熱帯ではこれまで植食者は寄主植物に特殊化していると考えられてきたが、本研究によって、従来の定説を覆す実証データを示すことができた。また、これらの成果を学会で発表するとともに、投稿論文にまとめた。記事が公表されれば、熱帯林の植物-植食性昆虫関係の維持や形成に関わるメカニズムに新しい視点をもたらすと考えている。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は、調査地で集めた昆虫サンプル約100個体を使って、寄主植物DNAの抽出・解析・同定を行った。また、得られた成果を学会で発表したほか、投稿論文にまとめ、計画どおり課題を遂行した。
平成24年度に実施した実験によって、従来の定説を覆すような研究成果を得たとともに、23年度に確立した実験プロトコールの有効性を実証することができた。今後は、これらの成果の公表を積極的に行う。また、残りの課題である東南アジア非季節性熱帯林の植物-植食性昆虫の相互関係の形成要因を解明するため、解析に必要な植物や昆虫の生態的特性データを所持している国内外の共同研究者と研究打ち合わせを綿密に行いデータの入手を円滑に進める。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件)
Insect Conservation and Diversity
巻: 6 ページ: 179-188
DOI:10.1111/j.1752-4598.2012.00201.x
Biodiversity and Conservation
巻: (印刷中)
DOI:10.1007/s10531-012-0405-0
Journal of Insect Conservation
DOI:10.1007/s10841-012-9544-6