研究課題/領域番号 |
11J06373
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森本 大智 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | ユビキチン / ユビキチン化 / 形質導入 / X線回折 |
研究概要 |
新規直鎖ポリユビキチン鎖の立体構造解析 昨年度の研究で、直鎖に加えK48結合型ならびにK63結合型ポリユピキチン鎖の熱力学的安定性は鎖長依存的に低下していることが明らかになった。さらに、ポリユビキチン鎖は熱ならびに力学的応力により繊維形成することも観察された。今年度、これらの知見をもとに、以下の項目に取り組み、興味深い結果が得られた。 力学的応力による繊維形成の定量的解析 一定の力学的応力をポリユビキチン鎖に加えたところ、その熱変性温度が低くなるに従って繊維形成速度が増加することが分かった。過去の報告で、熱力学的安定性の低下は繊維形成能が上昇することが示されている。ポリユビキチン鎖においても、鎖長依存的に熱力学的不安定化することにより繊維形成能が上昇しているが示唆された。 ユビキチン化タンパク質におけるユピキチン鎖の熱力学的不安定・繊維形成 細胞内でポリユビキチン鎖は単体として存在するより、基質に結合した状態で存在している。基質に結合した状態でも単体の時と同様の物理化学的性質が観察出来るか確かめるため、二種類の基質タンパク質(Calmodulin, FKBP12)をモデルとし解析を行なった。解析の結果、単体の場合と同様、基質に結合した状態でもポリユビキチン鎖は鎖長依存的に熱力学的不安定化し"熱変性ならびに力学的応力により繊維化することが示唆された。 細胞内ポリユビキチン鎖凝集体形成 次に、試験管内で解析した現象が細胞内でも引き起こるか検証した。実験にはマウス胎児線維芽細胞を用い、蛍光タンパク質EGFPを結合させたポリユビキチン鎖とモノユビキチンを形質導入により細胞内で発現させた。モノユビキチンを発現させた細胞では顕著な凝集体は確認出来ず、EGFPのみを発現させた細胞と同様、細胞質にほぼ一様に分布していた。一方、ポリユビキチン鎖を発現させた細胞では、いくつかの凝集体が生じていた。これより、試験管内で観察したポリユビキチン鎖の熱力学的不安定化が、細胞内でも引き起こされている可能性があると言える。 直鎖ポリユビキチン鎖形成E3リガーゼLUBACのポリユビキチン形成機構に関する構造学的研究 今年度、いくつかの条件でLUBACの結晶が得られた。具体的には、複合体構成要素であるHOIL-1Lのフレキシブル領域の切除、精製方法の改善、そして結晶化条件の最適化を行なうことで結晶が得られたと考えられる。放射光科学研究施設Photon FactoryにおいてX線回折実験を行なったところ、最大解像度2.8Aの回折を得られた。しかし、回折データの質が悪く、構造解析することが困難であった。これまでの結晶化実験の結果、結晶の質はサンプルの純度に敏感に呼応していることから、現在、更なるサンプル純度の向上に取り組んでいる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は試験管内に加え、細胞内の解析においても興味深い知見を得ることが出来た。当初より、データを学術論文としてまとめるうえで、細胞内での解析結果を含める予定をしていたため、本年度これが得られたことは順調に研究が進展していると言えるであろう。 また、結晶化に関しては、昨年度と異なり結晶が得られていることから、着実に進展していることがわかる。
|
今後の研究の推進方策 |
新規直鎖ポリユビキチン鎖の立体構造解析 本年度中に学術論文の投稿までは出来なかったため、来年度にはまず論文投稿に取り組む予定である。また、これまで得られている知見は現象論であるため、今後、核磁気共鳴のような原子レベルで解析できるツールを用いてそのメカニズム等、詳細な解析を行なうつもりである。 直鎖ポリユピキチン鎖形成E3リガーゼLUBACのポリユビキチン形成機構に関する構造学的研究 結晶化に関しては今年度いくつかの条件で結晶が得られていることから、今後、さらなる条件検討を行なうことで優良な回折データを得て、構造解析を行ないたいと考える。
|