研究概要 |
本研究は、マダラシミの概日時計分子機構を明らかにし、昆虫時計分子機構の理解を進めることを目的としている。本年度は、1.HR3及びE75の全長のクローニング、2.HR3及びE75の発現リズムの解析、3.HR3及びE75の機能解析及び、4.マダラシミの時計分子機構のモデル図の作成を行い以下の結果を得た。 1.HR3及びE75の断片から設計したプライマーを用いてRT-PCRを行い、HR3及びE75の全長cDNAを得ることに成功した。HR3及びE75は、ショウジョウバエのそれらと同様にDNA Binding Domain、及びLigand Binding Domainを持ち、これらの機能領域のハエのHR3及びE75との相同性は61~100%であった。この結果からHR3及びE75はハエのそれらと同様の核内受容体として機能することが示唆された。 2.リアルタイムPCRによりHR3及びE75のmRNA発現量を検討したところ、共に明期の終わりから暗期の始めにピークとなるリズムを示すことが明らかとなり、マウスror及びfev-erbのmRNAの発現パターンと類似することが明らかになった。 3.HR3及びE75の2本鎖RNAを作成し、マダラシミの腹部に注射したところ、多くの個体で脱皮が見られなくなり致死となった。また、生存した個体のそれぞれの遺伝子のmRNAレベルは有意に低下しており、恒暗条件下で歩行活動リズムが消失した。これらの事実から、HR3及びE75が概日リズムの形成に関与すると共にシミの個体発生にも不可欠な役割を持つことが示唆された。 4.これまでに得られた結果から、シミの概日時計分子機構では、ハエと同様にtim,Clk,cycが不可欠な構成要素であるが、timがハエ型の発現制御を受けるのに対して、Clkとcycは哺乳類型の制御を受けることが明らかとなった。従って、昆虫概日時計のプロトタイプはハエ型の要素と哺乳類型の要素を併せ持つことが示唆された。
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