研究課題
■問題と目的乳児期の発達環境において、養育者を中心とする大人の存在は大きい。大人は乳児と接するときに行為を誇張することが知られており、ゆっくりとした動きや大きな動き、バリエーション豊かな動きなど特徴のある行為は「Infant-directed action(対乳児行為)」などと呼ばれる。こうした特徴は、乳児の注意を引きつけ、行為の学習を促すと考えられている。従来、こうした特徴は"対乳児行為"と"対大人行為"の比較において検証されてきたが、対乳児が乳児にとってどのような意味があるのかを明らかにするためには、まずこのような特徴が乳児との相互作用の中で時系列的にどのように変化するのかを検証する必要がある。本年度は、養育者と乳児の相互作用場面における養育者の行為を定量的に解析し、乳児自身の物体操作との関連、養育者・乳児双方の注意方向との関連を検証し、対乳児行為と乳児の物体操作の相互作用的関係を明らかにすることを目的とした。■方法参加者:生後6ヶ月と12ヶ月の乳児とその養育者手続き:乳児と養育者のペアに対面して座ってもらい、約3分間、養育者に玩具の遊び方(カップ重ね課題)を乳児に呈示するように教示。その際、できるだけ自然にふるまうようにお願いし、声掛けや玩具を乳児に手渡すことも自由にしてもらった。解析:・3次元運動計測装置(Kinect,Microsoft)を用いて、養育者が乳児に呈示したカップの動きを追跡⇒従属変数:呈示時間、呈示軌跡の長さ(呈示軌跡長)、呈示軌跡の長さの分散(呈示軌跡バリエーション)・乳児がカップを触っているときのカップを重ねようとする行動がみられるどうか(Yes/No)・養育者と乳児の視線方向(相手の顔/玩具/その他)■結果1.養育者の呈示時間・呈示軌跡長:対12ヶ月児<対6ヶ月児2.養育者の呈示軌跡バリエーション:乳児の月齢に関係なく、乳児のカップ重ね行動後に減少・カップ重ね以外の操作後に増加3.養育者が乳児の顔を見ていた時間割合と呈示時間・呈示軌跡長との相関関係:乳児の月齢に関係なく、それぞれ正の相関⇒養育者が乳児の注意をモニタリングしているほど誇張度が大きくなることを示唆4.乳児が養育者の呈示を見た時間割合と養育者の呈示時間との相関関係:12ヶ月児についてのみ負の相関(6ヶ月児は無相関)→6ヶ月児に対する養育者の視線は、モニタリング以外の役割を含むことを示唆?
2: おおむね順調に進展している
養育者一乳児相互作用には様々な特徴がみられるが、今回は養育者が乳児に対してみせる行為の誇張に着目した。さらに、その誇張が乳児からのフィードバックによって即時的に調整されていることを示した点で、本研究は、これまでの研究で検証されてきた("対大人"行為との比較においての)"対乳児"行為の生起する要因のひとつを明らかにすることができたといえる。今後は得られたデータを論文化し国際誌への投稿準備を進める。
養育者一乳児相互作用においては、対乳児行為のような誇張だけでなく、相互模倣や養育者による乳児の模倣(いわゆる"逆模倣")も特徴の一つであると言える。今後は、これらの行動特徴が相互作用中で生起するメカニズムおよびそれらが乳児の社会的認知発達に与える影響について、実際の相互作用場面の行動解析および統制の取れた実験状況下での検証によって明らかにしていきたい。
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Proceedings of the 2nd IEEE International Conference on Development and Learning and on Epigenetic Robotics
巻: (印刷中)
10.1109/DevLrn.2012.6400879