研究課題/領域番号 |
11J06478
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大田 由一 東京大学, 物性研究所, 特別研究員DC1
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キーワード | 光電子分光 / 鉄系超電導 / 極低温 |
研究概要 |
(1)装置の低温化・高分解能化 鉄系超伝導体ホールドープ系Ba1-xKxFe2As2のKエンドであるKFe2As2の超伝導転移温度は3.5Kであり、超伝導ギャップが開ききった状態での測定には少なくとも1.7Kの冷却性能が必要である。よって試料での冷却性能の向上、及び高分解能化を目指し、新型レーザー角度分解光電子分光装置の改良を行った。その結果、Snの超伝導ギャップ測定において冷却性能1.5Kを達成、明瞭なコヒーレンスピークの観測に成功し、KFe2As2の測定に十分な冷却性能・分解能を達成した。また、新型装置の改良・実験を重ね、実験の効率化・装置の安定化を行い、他研究者でも利用できる装置になりつつある。 (2)鉄系超伝導体Ba1-xKxFe2As2オーバードープ試料の超伝導ギャップ対称性の決定 鉄系超伝導体ではこれまでノードを直接観測した事例は報告されていなかった。KFe2As2では先行研究からノードの存在が示唆されており、1つの物質系で異なる超伝導相の存在が示唆されていた。我々は、(1)の新型レーザー角度分解光電子分光装置によって、初めてKFe2As2の超伝導ギャップの観測に成功し、ノードの波数位置を特定、超伝導対称性を決定した。この結果は、先行研究において報告されていた最適ドープ試料(BaO.6KO.4Fe2As2)から劇的な変化を見せており、最適ドープとKFe2As2の間のオーバードープ領域においてどのような変化が起きているのか非常に興味深い。現在、このオーバードープ領域のいくつかの組成についての実験が進行中であり、非常に興味深い結果が得られている。今後はこれらの結果について解析を進め、Ba1-xKxFe2As2の超伝導機構を通して鉄系超伝導体の超伝導機構解明を目指す。 (3)8eVレーザーの導入 我々の研究グループは、東京大学物性研究所小林研究室との共同研究で、8eVレーザーの開発を行っている。今年度は8eVレーザーの導入まで至らなかったが、来年度前半の導入を予定している。(2)の研究において、観測されたBa1-xKxFe2As2のフェルミ面のドープ依存性、ギャップサイズの大きさが先行研究から予想される値とは異なり、7eVでは観測できない、ブリルアンゾーン端近傍のホール面での変化が興味深い。8eVレーザーの導入しだい調整を早急に進め、これらの測定を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型レーザー角度分解光電子分光(ARPES)装置の改良において、目標としていたKFe2As2の超伝導状態の測定に十分な冷却性能・分解能を達成し、KFe2As2の超伝導状態のユニークな超伝導ギャップ、及びその異方性の観測に成功した。これらの結果については、学会や領域会議で積極的に発表を行った。現在、Ba1-xKxFe2As2オーバードープ領域の試料における実験が進行中であり、こちらの実験においても非常に興味深い結果が観測しており、今後の研究に期待が持てる。
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今後の研究の推進方策 |
Ba1-xKxFe2As2オーバードープ領域において、非常に興味深い超伝導ギャップの異方性の変化が観測されている。今後は、この領域のドープ量変化について詳細に研究する。また、ブリルアンゾーン端X点近傍にあるホールポケットにおいて超伝導ギャップサイズ及び異方性がどのようになっているか非常に興味深いので、実験装置への8eVレーザー導入を進め、X点近傍の観測を実現する。
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