研究概要 |
(1)装置の低温化・高分解能化 23年度は、新型レーザー角度分解光電子分光装置の低温化・高分解能化改良の結果、超伝導転移温度(Tc)3.7KのSnの超伝導ギャップ測定において、冷却性能1.5Kを達成し、明瞭なコヒーレンスピークの観測に成功した。24年度はさらなる改良を進め、その結果、Tc=1.7KのReや、Tc=1.2KのA1における超伝導ギャップの測定に成功し、A1の測定において、冷却性能1Kを達成した。 (2)鉄系超伝導体Ba1-xKxFe2As2オーバードープ試料の超伝導ギャップ異方性の観測 23年度の研究成果から、鉄系超伝導体KFe2As2の超伝導ギャップにおける異方性及びノードの波数位置を特定、超伝導対称性を決定した。また、ゾーンセンターにある3枚のホールフェルミ面において、超伝導ギャップサイズのシート依存性が存在することも分かった。これは、ノードが存在せず、異方性も弱く、シート依存性がない最適ドープ試料(Ba0.6KO.4Fe2As2)から劇的な変化を見せており、最適ドープとKFe2As2の間のオーバードープ領域においてどのような変化が起きているのか非常に興味深い。 24年度は、このオーバードープの試料(x=0.93,0.88,0.76)について超伝導ギャップの測定を行った。その結果、Kドープ量の変化に対して、ギャップの異方性やシート依存性に劇的な変化が観測された。理論研究によって、KFe2As2のおける3枚のホール面の面内と面間相互作用がほぼ縮退したような状況になっているとすれば、計算によってKFe2As2のノードを持つフェルミ面の異方性を再現できると言われている。面内と面間の相互作用がKFe2As2の近辺で縮退していると考えると、Kドープ量の変化によって面内と面間の相互作用のバランスが変わり、異方性が劇的に変化することが考えられるため、我々の実験結果は、この理論研究を支持するような結果となった。 (3)U系試料における超伝導ギャップの観測 (1)の装置開発によって十分な冷却性能・エネルギー分解能を達成したので、(1)の装置のターゲットの1つにしていた、ウラン系試料U6FeとUPd2A13における超伝導ギャップの観測を試みた。結果、両方の試料において超伝導ギャップの観測に成功した。 24年度はバンド分散を観測することができなかったため、来年度はバンド分散の観測及び超伝導ギャップの異方性の観測を試みる。 (4)8eVレーザーの導入 我々の研究グループは、東京大学物性研究所小林研究室との共同研究で、8eVレーザーの開発を行っている。今年度は8eVレーザーの光学系を、新型レーザー角度分解光電子分光装置の7eVレーザー光学系に組み合わせた。8eVの光学系の調整に難航しており、まだ試料の測定は行っていない。来年度は調整を早急に進め、(2)の研究におけるBa1-xKxFe2As2のブリルアンゾーン端近傍のホール面での超伝導ギャップやその異方性のドープ依存性の観測を試みる。
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