研究概要 |
二本目の花粉管誘引停止の引き金となる受精過程を特定するため,卵細胞または中央細胞の片方とのみの受精,すなわち単独受精を引き起こす変異体について解析を行った.その結果,卵細胞と中央細胞の両方の受精が二本目の花粉管誘引停止の鍵シグナルとして機能することが明らかとなった.さらに卵細胞や中央細胞の機能異常を示すような変異体が,二本目の花粉管誘引停止についても異常を示すのかどうか検討したところ,中央細胞や胚乳のにおいて特異的に機能する,あるエピジェネティックな制御因子の変異体が有意に高い割合で2本の花粉管を受容することが示された.これらの結果は,Developmental Cell誌に掲載される. 今年度は主に花粉管誘引停止を引き起こす細胞学的な実体を明らかにするために,受精後の胚珠のライブイメージングを行った.その結果,驚いたことに受精した中央細胞,すなわち胚乳が花粉管を受容しない方の助細胞(残存助細胞)と細胞融合することが明らかとなった.この融合現象は,残存助細胞の内容物を急速に胚乳へと吸い出すことで機能低下を引き起こすだけでなく,助細胞核崩壊にも深く関与することが示唆され,残存助細胞死の重要な過程であることが明らかとなった.現在までに,コンセンサスが得られている被子植物の細胞融合現象は,卵細胞または中央細胞が精細胞と融合する重複受精しか知られていなかった.今回の発見は被子植物の生活環における第三の細胞融合現象である.また,この現象を細胞死の観点からみると,細胞融合の後に一方の核だけが選択的に排除されるという様式の細胞死として,動植物を通じて初めての報告と考えられる.以上の結果について,現在,論文の投稿準備を行っている.
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