研究課題
本研究では我々が新たに同定した転写因子Gata1遺伝子の造血幹細胞特異的なサイレンサー領域を解析対象とし、結合因子を同定することで造血幹細胞の赤血球分化開始機構を解明する。さらに、解明した赤血球分化開始の分子メカニズムを、白血病幹細胞を標的とした分化誘導療法開発へと応用することを目的としている。サイレンサー領域の欠失により、Gata1遺伝子座周辺のDNAメチル化が低下していたことから、サイレンサー結合因子の候補としてDNAメチル化維持酵素であるDnmt1を想定した。そこで、多分化能を示す血球系細胞株A6を用いてDnmt1のクロマチン免疫沈降実験を行った結果、サイレンサー領域周辺にDnmt1の強い結合を観察した。また、A6細胞をDnmt1の阻害剤である5-Aza-dCで処理したところ、GATA1のmRNA発現レベルが3-4倍程度上昇した。以上の結果から、Dnmt1はGata1遺伝子のサイレンサーに直接結合し、DNAメチル化を介してGata1遺伝子の発現を抑制していることが示された。さらに、サイレンサー領域を欠失させたGata1遺伝子構築を持つトランスジェニックマウスを作製した。DNA構築はGata1遺伝子座を含む196kbの大腸菌人工染色体をベースとして作製した。この作製したDNA構築を用いてマイクロインジェクションを行い、2ラインのトランスジェニックマウスを得ることに成功した。今回得られた結果は、これまで明らかではなかった造血幹細胞におけるGata1遺伝子発現抑制のメカニズム解明につながるとともに、抑制メカニズムの生物学的な意義を知るうえで非常に重要な成果であると考えられる。今後は新たに作製したマウスの血液学的な解析を進める予定である。また、このマウスと白血病モデルマウスを交配させ、白血病幹細胞でGATA1を強制的に過剰発現させる実験を計画している。この実験を行い、白血病幹細胞が赤血球へと強制的に分化し、白血病幹細胞が根絶するかどうか検討することで、新規分化誘導療法の開発へとつながる可能性が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
サイレンサー結合因子に関してはDnmt1を同定できた。また、サイレンサー領域を欠失した遺伝子改変マウスに関しては、サイレンサー領域欠失マウスのFO個体が得られている。従って、年次計画に記載したサイレンサー結合因子の同定とサイレンサー領域欠失マウスの作製という点に関しては、計画通り進んでいると考えている。
今年度得られたサイレンサー領域欠失マウスのライン化を進める。その後、このマウスを用いてフローサイトメトリー解析やコロニーアッセイなどの血液学的な解析を行い、造血幹細胞におけるGATA1抑制の生理的な意義を検討する。また、サイレンサー領域欠失マウスと白血病マウスを交配させ、白血病幹細胞でのGATA1過剰発現により、白血病幹細胞が赤血球に分化するかどうか検討する。
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Mol Cell Biol
巻: (印刷中)
J Am Soc Nephrol
巻: 22 ページ: 635-648
10.1681/ASN.2009111130
http://www.dmbc.med.tohoku.ac.jp/official/mdex.html