研究課題
二価の炭素ビラジカル状態とみなすことができる三重項カルベンは有機磁性材料への応用が期待されているものの、非常に不安定な反応中間体であり、未だ安定化は非常に難しい状況である。そこで、申請者らは三重項カルベンの新規発生法の開発と合成を検討している。具体的にはアクリデン骨格を有するアレン化合物の二電子酸化反応による三重項カルベンの合成を計画した。立体保護基として塩素原子を導入したアレン化合物の二電子酸化反応を行ったが、酸化が困難なことが原因で二電子酸化を達成することが出来なかった。今年度には、発生方法をアレン化合物の臭素化と光分解に変更し、新潟大学の古川先生との共同研究により三重項種の発生をESR測定で確認できた。しかし、光分解の変換効率が悪いので、単離には至っていない。また、以前三重項カルベンの合成を目的としてメトキシ基を立体保護基として有するアレン化合物の酸化反応を行った結果、予想に反して、非局在型一項ビラジカル種が生成することを見出していた。大阪大学中野教授、産総研鎌田先生との共同研究による理論計算、二光子吸収測定を行い、同じ骨格を用いて、ジラジカル性の有無で二光子吸収が異なることを初めて直接的に示す事ができ、最近、JACS誌に論文を報告することが出来た。現在、酸化が容易で分解も抑制できる理想的な系として、フェノキシ基に着目し、前駆体である荒れん化合物の合成を行っている。現在、アレン化合物合成に必要な鍵中間体であるアクリドンの合成まで達成しており、三重項カルベンの単離まであと一歩のところまで来ている。
3: やや遅れている
新たな発生方法として臭素化したアレン化合物の光分解に取り組み、三重項カルベンを発生させる事ができたものの変換効率が悪く合成方法としては適さなかった。三重項カルベンの構造解析という最終目標は達成できていないためこのような評価となった。
現在、私はフェノキシ基を立体保護基として有し、容易な二電子酸化を起こすことができるような系を目指し、合成を行っている。新規前駆体合成は非常に困難であったが、後数段階のところまできており、新たな系での三重項カルベンの合成が期待できる状況にある。
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Journal of the American Chemical Society
巻: 135(1) ページ: 232-241
DOI:10.1021/ja308396a