研究課題/領域番号 |
11J06552
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井元 健太 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | 光磁性 / スピンクロスオーバー / シアノ架橋錯体 / 鉄イオン |
研究概要 |
光で磁気特性を制御するという光磁性現象は、学術的な研究のみならず、応用展開という観点からも興味深い現象として注目されている。一方、温度や光などの外場により電子状態が変化する現象としてスピンクロスオーバー現象が知られているが、光誘起スピンクロスオーバーをメカニズムとした光磁性はこれまで達成されていなかった。そこで本研究では、光誘起スピンクロスオーバー強磁性の実現を目的とし、金属イオンがシアノ基で直接架橋されたシアノ架橋型金属錯体に着目し研究を行った。具体的には、Fe^<II>と[Nb^<IV>(CN)_8]、4-pyridinealdoximeを組み合わせた[Fe^<II>(4-pyridinealdoxime)_4]_2[Nb^<IV>(CN)_8]・2H_2Oを新規に合成し、結晶構造の解析、各種分光測定、磁気測定を行った。その結果、この錯体はFe^<II>とNb^<IV>がシアノ基によって交互に架橋された3次元構造を有し、130K付近でスピンクロスオーバーを示す錯体であることが判った。また、低温でFe^<II>低スピン状態(S=0)の本錯体に、波長473nmのcwレーザー光照射を行ったところ自発磁化の発現を観測し、この光誘起相は磁気相転移温度20K、保磁力240Oeの強磁性体であることが明らかとなった。また、分光測定の光照射実験から、観測した光磁性現象のメカニズムは、光誘起スピンクロスオーバー現象が起こることでFe^<II>高スピン状態(S=2)が生成し、さらに3次元的にシアノ基で架橋されたFe^<II>(高スピン、S=2)とNb^<IV>(S=1/2)の間の大きな磁気相互作用により強磁性が発現したことが示唆された。このように本研究では、スピンクロスオーバー現象を示すFe^<II>イオンを、不対電子を持つ[Nb^<IV>(CN)_8]と3次元的に集積化させることにより、光誘起スピンクロスオーバー強磁性の初観測に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、光誘起スピンクロスオーバー強磁性という新たなメカニズムによる光磁性現象の実現を目指して研究を行った。具体的には、Fe^<II>イオンと[Nb^<IV>(CN)_8]イオン、有機配位子を組み合わせた金属錯体を新規に合成し、結晶構造や物性評価、光磁気効果の検討などを行った。その結果、光誘起スピンクロスオーバー強磁性を示す物質を初めて構築することに貢献した。この結果を含め、本年度の研究成果は、学術論文が筆頭著者論文1報、共著論文3報、日本語総説(共著)1報となっており、当初の計画以上に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では光誘起スピンクロスオーバー強磁性体を構築することに成功したので、今後は、磁気相転移温度や保磁力などの磁気特性の向上した光誘起スピンクロスオーバー強磁性体の構築を目指していく。具体的には、Feイオンを他の金属イオンで部分置換することによって磁気特性の向上を図る。採用者は平成23年度にVと[Nb(CN)_8]を組み合わせることにより高い磁気相転移温度を示す錯体の構築に成功しており、FeイオンをVイオンなどの金属に部分置換することによって磁気相転移温度の向上が期待されるほか、Coイオンを導入することによって保磁力の向上が期待される。また、光誘起スピンクロスオーバー強磁性について、その熱力学的パラメータを解析し、光誘起スピンクロスオーバー強磁性を熱力学の面から明らかにする予定である。
|