研究課題/領域番号 |
11J06552
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井元 健太 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | シアノ架橋型金属錯体 / 高い磁気相転移温度 / オクタシアノ錯体 / バナジウム |
研究概要 |
分子磁性体は光磁性現象や、湿度応答型の磁性、非線形磁気光学効果など、さまざまな磁気機能性を付与することが可能であるため、非常に注目されている。一方、分子磁性体の磁気相転移温度(Tc)は一般に低いものが多く、その向上が1つの課題となっている。本研究では、高いTcを示す分子磁性体の構築を目的とし、オクタシアノ金属錯体の[Nb^<IV>(CN)_8]と、V^<II>イオンを組み合わせた分子磁性体の合成を新規に行った。IRスペクトル、元素分析結果より組成はK_<0.59>V^<II>1.59V^<III>0.41[Nb^<IV>(CN)_8]・(SO_4)_<0.50>・6.9H_2Oと決定された。粉末X線回折パターンはブロードであり、結晶性が低いことが示唆されたが、以前に当研究室において報告したK0.10V^<II>0.54V^<III>1.24[Nb^<IV>(CN)_8]・(SO_4)0.45・6.8H_2OのXRDパターンと類似していたことから、本錯体は正方晶の3次元ネットワークを有することが示唆された。磁気測定の結果、本錯体は210Kという非常に高いTcを示し、オクタシアノ錯体を組み合わせた分子磁性体の中で最高のるを記録した。また、磁化磁場曲線の測定の結果、外部磁場5テスラにおける磁化の値は4.6μ_Bであり、V^<II>、V^<III>とNb^<IV>の間に反強磁性的な超交換相互作用が働き反平行に配列した場合に計算される飽和磁化値4.6m_Bと整合していた。以前、当研究室では[Nb^<IV>(CN)_8]とV^<II>イオンを組み合わせた錯体においてTc=138Kの錯体の合成に成功していたが、今回、合成法や合成条件を工夫することによってさらに高いTcの実現に成功した。このような高い磁気相転移温度が実現したのは3d軌道の広がりが大きいV^<II>と、8配位という高い配位数を有し軌道の広がりの大きい4d遷移金属からなる[Nb^<IV>(CN)_8]の間に大きな磁気相互作用が働くためと考えられる。実際に、分子磁場理論からV^<II>とNb^<IV>の間の交換相互作用定数は-51cm^<-1>とかなり大きい値であったことから、V^<II>の割合の増加により大きな超交換相互作用が働くV^<II>-Nb^<IV>間のパスが増え、高い磁気相転移温度を示す分子磁性体の構築につながったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、磁気相転移温度の高い分子磁性体の構築を目指して合成法や合成温度などの様々な条件を検討し、V~<II>イオンと[Nb^<IV>(CN)_8]イオンを組み合わせた分子磁性体の合成を行った。その結果、210Kという非常に高い磁気相転移温度を示す錯体の構築に成功した。この研究結果は高い磁気相転移温度を示す機能性磁性体の足掛かりとなるような結果であり、順調に研究が進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では高い磁気相転移温度を示す分子磁性体を構築することに成功したので、今後は、磁気相転移温度や保磁力などの磁気特性の高い機能性磁性錯体の構築を目指していく。採用者は、2011年に新たなメカニズムに基づく光磁性体である、光誘起スピンクロスオーバー強磁性体の構築に貢献しており、今後は、磁気特性の向上した光磁性体の発現を目指してゆく。また、新たなタイプの光誘起スピンクロスオーバー強磁性体の構築や、光誘起スピンクロスオーバー強磁性体の熱力学的解析などを予定している。
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