研究課題/領域番号 |
11J06630
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松井 亨 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 核酸塩基 / ミスマッチ塩基対 / 酸解離定数 / 密度汎関数法 / イオン交換反応 / 量子化学計算 |
研究概要 |
金属イオンを取り込みうるDNAにおいて磁性を持つ錯体は現在のところ確認されていない.そこで,数多く存在する金属イオンと人工DNAもしくは金属イオン含有DNAの中から強磁性を持ちうる錯体を計算により安定性を調べることを当該年度の目標とした。 結果として、グアニンとチミンとチミン-チミンのミスマッチ塩基対においてはNiやCuなどの高スピン状態をとりうる金属原子を取り込んだ形で安定しうることが構造最適化の結果から判明した。また、塩基対をスタックさせた形においては高スピン状態と低スピン状態ではエネルギー差が見られなかった。ただ、金属イオンを奇数個配列させることにより、スピンを持つ核酸塩基対を作成することも可能であることを示唆した。 核酸塩基において金属イオンを取り込むためには、塩基内での脱プロトン過程が重要となる。そのために、プリン体やピリミジンから出るプロトンのギブスエネルギーや酸解離定数を計算により求めることに注目し、ピリミジンから出るイミノ基のプロトンのギブスエネルギーを実験値と計算値の両方を用いて導出する方法を開発した。実際に5位置換したウラシルのイミノプロトンと銀イオンとがイオン交換を行い、銀イオンがイミノ基に配位する過程を計算により再現した。この手法はその他の化合物における酸解離定数の導出にも適用することができ、量子化学計算を用いて初めてアミノ酸側鎖の酸解離定数を定量的に求めることに成功した。 以上のことから、当該年度においては主に核酸塩基からの脱プロトン反応を主に注目し、その結果から様々な金属イオンの取り込みの可能性をより定量的に判断する方法を提案することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度に開発した酸解離定数の算出スキームは、強磁性を持ちうる人工核酸塩基対の作成になる指針だけでなく、あらゆる化合物の酸解離定数の導出に適用可能である。この方法により、核酸化学の分野だけでなくその他の生化学の分野へも応用できるため、この一年で得られた結果は大変大きいものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、光機能を持つ核酸塩基に関する研究を進める。具体的には、ウラシルの5位部分にピレンを導入した系に金属をさらに配位させて、さらなる光機能を持たせることが可能かを計算により明らかにして行く予定である。そのためには、重金属の励起状態を扱うことが必要となってくるので錯体の励起状態計算に精通した研究者の下で研究を行うことも検討している。
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