研究課題
前年度に解明したチャネルロドプシンの閉状態における結晶構造を元に、チャネルロドプシンの開状態の構造解析に取り組んだ。閉状態の構造解析に用いたチャネルロドプシンのキメラ体は光サイクル全体における開状態の寿命が非常に短く、そのままでは開状態の結晶化に適さない可能性が高かった。そのため、電気生理学的解析によって、開状態の寿命が著しく延長する変異体を探索した。開状態の延長が確認された変異体に付いては昆虫細胞を用いて少量培養、精製を行い、その安定性と発現量を評価した。得られた新規チャネルロドプシンキメラ変異体は元のキメラと比較して10,000倍以上の開状態寿命を示したため、現在、光照射下でこのキメラ体を結晶化することにより、開状態の結晶構造解明に取り組んでいる。また、チャネルロドプシンの吸収波長シフト変異体のデザインにも着手しており、前年度で得られたチャネルロドプシンキメラの結晶構造を用いて量子力学的シミュレーションを行い、チャネルロドプシンの吸収波長を決定するのに重要なアミノ酸残基を予測した。そして、予測された残基が実際に吸収波長に与えている寄与を見積もるため、予測されたアミノ酸残基に変異を導入したチャネルロドプシン変異体を調製し、その吸収波長を測定し、シミュレーションによって予測された残基が実際に吸収波長へ影響を与えることを確認した。これら一連のin silico,in vitro解析により研究員は最大で40nmの吸収波長シフトを示す変異体の調製に成功している。これらの結果の一部はChemical Physics Letter誌に掲載され、現在も吸収波長シフトを更に伸ばすため、シミュレーションと変異体調製を行っている。
2: おおむね順調に進展している
当初2年目の目的であった開状態の構造解析に付いて一定の結果が得られており、また本来は3年目の目的であったチャネルロドプシンの吸収波長変異体の作成に付いても既にいくつかの変異体が得られており、その結果の一部を論文にまとめて報告することが出来たため。
チャネルロドプシン開状態の構造解析を達成するため、開状態長寿命化の変異体を用いて、結晶化時の光照射条件の更なる検討を行う。同時にチャネルブロッカーや開状態構造に特異的に結合する抗体のスクリーニングを行う。また、吸収波長に影響を与えるアミノ酸同士を組み合わせて変異を導入することによって、更に大きな波長シフトを示す変異体の調製を行う。
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