研究概要 |
昨年度末から取り組んでいた,Galileon相互作用項を含むインフレーション模型の研究について,インフレーション後の再加熱に必要な場の振動が正常に起こるためのパラメータの制限と観測からの制限を合わせて,模型の整合性を評価した.この研究は7月にまとまり,学術雑誌(JCAP)に投稿,10月に受理された.この研究内容について,いくつかの国際会議や物理学会で発表を行った(13参照). その後新しい研究方針として,今後の観測で制限が期待できる宇宙の異方性を含むインフレーション模型についての議論をするため,まず先行研究を通して理解を深めた.これは,インフレーションを引き起こすスカラー場が,ベクトル場と相互作用している模型で,インフレーション中に異方性モードがある程度残る事が示されている.また,宇宙の温度ゆらぎがガウス分布からどの程度ずれているかを表すパラメータ(non-Gaussianity)が近年注目されており,この模型では観測にかかる程度の大きなnon-Gaussianityが理論的に予測されている.2013年3月に発表されたPlanck衛星の結果では,従来のものよりも一桁程度の強いnon-Gaussianityの制限が得られており,このモデルは観測的に棄却される可能性がある.異方性を示す観測パラメータについては,Planck衛星の結果ではまだ解析されていないが,それまでのWMAP衛星の結果によれば,観測的に異方性が存在する事が示唆されている. 以上のような背景をふまえ,我々は先行研究を拡張したモデルとして,2-form fieldがインフラトン場と相互作用している模型について,観測パラメータがどのように理論予測されるかを議論した.先行研究の場合と比べて,同じように異方性が残る一方で,特定のモードにおけるnon-Gaussianityが小さくなり,新しいPlanckの制限と矛盾しない結果が得られた.今後Planckの解析からゼロでない異方性パラメータの結果が出てくるのであれば,このモデルは初期宇宙を記述する上で,非常に現実的な模型であるといえる.この研究は3月末にまとまり,学術雑誌(PRD)に投稿,4月上旬に受理された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度,初めて他大学の研究者との共同研究で,素粒子物理から動機づけられるインフレーション模型の理解・解析をする事ができた.ダークエネルギーに関しては,新しい研究はできなかったが,インフレーションの研究で2つのテーマについてまとめることができた.
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今後の研究の推進方策 |
3月に発表した研究内容について,9月の物理学会やイギリスで開催される国際会議で発表していく予定である.1また,新しいPlanck衛星の結果が年度末に発表された事を受けて,現在様々な宇宙論モデルについて1の観測的制限に関する研究が活発に行われている.この波に乗り遅れないように,私自身が今まで行ってきた様々なインフレーション模型について,新しい観測データを使ったlikelihood解析を用いて制限をつけ,モデルの選別をすることを考えている. 他大学の研究者を交えた研究会やゼミへの参加も積極的に行っていきたい.
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