研究課題/領域番号 |
11J06795
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋葉 宏樹 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | 希土類錯体 / チロシンリン酸化 / 蛍光・発光プローブ / バイオコンジュゲーション |
研究概要 |
本研究課題においては、Tb(III)錯体を利用したTyrリン酸化検出システムを利用して、(1)タンパク質Tyrリン酸化の直接イメージングのための、高選択性かつ高い応答を示すTb(III)錯体の探索、(2)Tb(III)錯体のコンジュゲーションによる抗体の機能化という2点の研究を行っている。 本年度、(1)に関しては、多種のリン酸基認識メカニズムを有する複数のTb(III)錯体を合成、評価した。しかし、いずれにおいても高い応答は観測されなかった。 (2)に関しては、Tb(III)錯体の<酵素反応の基質ペプチドへの導入>→<基質タンパクへの導入>→<抗体等認識分子への導入>という順で検討を行うこととした。まず、以前の報告において最も良好なTyrリン酸化への応答・選択性を示したTb(III)錯体に反応性官能基を導入することで、正電荷を有するTyr含有ペプチドのC末端へと Tb(III)錯体をコンジュゲーションした。これを基質とし、酵素的リン酸化を行ったところ、Tyrリン酸化に伴って発光強度が増大する様子を観察することに成功した。本手法により、負電荷を有するペプチドに限定されていたTb(III)錯体によるTyrリン酸化検出系を、より広汎な検出系へと展開することができた。 さらに、チロシンキナーゼ阻害剤のスクリーニングにTb(III)錯体による負電荷をもつペプチドのTyrリン酸化検出系(以前に報告のもの)を用いる評価を進めた。本系では、ペプチドの酵素的リン酸化に伴って発光応答の上昇が観測されるため、阻害剤の効果がリアルタイムに観察できる。既知の阻害剤を用いてモデル実験を行ったところ、発光応答の抑制を観測することに成功した。現在、これを実際に定量手法へと展開するシステムを構築している。 これらの研究は、in vitroでのタンパク質リン酸化解析、阻害剤のスクリーニング等、生命科学・創薬で利用できる有効なツールへとつながることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、研究内容(1)に関しては、複数の錯体を合成し、それを評価したものの、そこから得られる情報が非常に少なく、これ以上の展開が難しくなっている。しかしながら、研究内容(2)に関しては、当初方針とはコンジュゲートの作製手法を変更したものの、そのことにより、ペプチドのリン酸化をリアルタイムに検出することに成功している。また、当初方針にはなかった、チロシンキナーゼ阻害剤の阻害効果をモニターすることに成功しており、本手法を、生命科学研究・創薬において実際に利用できるものへと展開する基礎を築くことができたと考えている。以上により、半分は計画未達、半分は計画以上の進展であると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、研究内容(2)を中心に据え、コンジュゲートによるペプチドリン酸化検出を確実に定量的なものとし、さらに、これをタンパク質リン酸化検出手法へと展開する計画である。その際、実績の概要でも述べたように、まず基質タンパクへのTb(III)錯体の導入を行い、続いて認識分子への導入をする。それぞれのレベルでリン酸化を発光によって検出するとともに、それを定量的に解析する計画である。また、阻害剤のスクリーニングの系については、それが定量的なものであることを確認するとともに、新規阻害剤の探索へと進める手法について検討する計画である。
|