研究課題/領域番号 |
11J06837
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北中 佑樹 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特別研究員(PD)
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キーワード | 圧電性 / 誘電性 / 単結晶 / 結晶成長 / 格子欠陥 / 第一原理計算 / 圧電応答顕微鏡 |
研究概要 |
(1)ヘテロ界面の形成手法確立 ヘテロ界面を利用したドメイン構造制御(ドメインエンジニアリング)を目指して、極性材料/強誘電体材料ヘテロ界面の形成を試みた。対象物質としてBi系強誘電体を、形成手法としてTSSG法およびPLD法を選択した。TSSG法においては、極性材料を種結晶とすることによってヘテロ界面の形成を試みたが、高温下でBiが種結晶と反応してしまい、良好な結晶界面の形成が困難であった。そのため、比較的低温での結晶成長が可能なPLD法によるヘテロ界面の形成に移行した。強誘電体材料として(Bi0.5Na0.5)TiO3を選択し、現在までにPt/Si結晶基板上に平滑かつ単相な多結晶膜を形成することに成功した。 (2)Bi系強誘電体単結晶におけるドメインエンジニアリング Bi系材料におけるドメインエンジニアリングの効果はこれまで報告されていない。そこで、結晶育成時の高酸素圧化によって得られた高品質Bi4Ti3O12(BiT)単結晶を用いて、結晶の圧電性におけるドメインエンジニアリングの効果を調べた。ドメイン構造観察の結果、結晶<100>方向に高電圧を印加したBiT結晶では、ほぼ結晶全域でシングルドメイン構造が形成されていた。一方、<110>方向に電圧を結晶した結晶(エンジニアードドメイン結晶)においては、緻密な90度ドメイン構造が形成されることが明らかとなった。インピーダンス測定における共振反共振波形の評価から、エンジニアードドメイン結晶の圧電定数は52pC/N、結合係数は44%であり、シングルドメイン結晶と比べて優れた圧電特性を示すことが判明した。有望な非鉛強誘電体として期待されるBi系強誘電体において、ドメインエンジニアリングが特性向上に寄与することが、本研究で初めて明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘテロ界面の形成手法として当初選択したTSSG法は、高温下で界面における反応を抑制できず、良質なヘテロ界面の形成は困難であった。その課題解決のため、比較的低温でのエピタキシャル成長が可能なPLD法に移行し、すでに単相薄膜の形成に成功しており、順調に推移していると考えている。また、並行して進めている、Bi系強誘電体におけるドメインエンジニアリング効果の評価では、すでに既報にない成果が得られている。以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
現状、PLD法で得られているのは多結晶薄膜である。一方、良質なヘテロ界面の形成においては、基板との結晶方位が揃ったエピタキシャル膜が望ましい。今後の進展としては、PLD法の膜生成条件をさらに改善することで、極性結晶基板上へ良質なエピタキシャル強誘電体膜の作成を目指す。また、昨年度はBi系強誘電体におけるドメインエンジニアリングの効果を初めて実証したが、現状では結晶に導入可能なドメインサイズに限りがあり、特性向上の効果も限定的である。ヘテロ界面を用いた新規ドメイン制御手法を確立し、より微細なドメイン構造をBi系強誘電体に導入することで、さらなる特性向上を目指す予定である。
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