研究課題/領域番号 |
11J06842
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三野 和惠 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 台湾史 / キリスト教史 / 宣教 / イングランド長老教会 / 台南神学校 / 植民地 |
研究概要 |
本研究は、日本統治下台湾において、台湾の人々との個別具体的な出会いにより植民地支配への懐疑、自らの「キリスト教」像の捉え返しの契機を与えられたイングランド長老教会の宣教師キャンベル・N・ムーディ(1865-1940)の思想の特徴を解明し、同教会宣教師と台湾の人々との関係性を明確化することを目的とする。 2012年度には、まずムーディの英文著作を包括的に検討し、彼が宣教活動を行う中で、自らが多くの同時代キリスト教徒と共有していた「異教徒は道徳化を必要とする心なき人々である」という先入観の問題に気付き、キリスト教宣教の使命の捉え返しを迫られるようになる過程を捉えた。同時に、ムーディがこの問題意識を基点に、キリスト教徒が「異教徒」に対して有する優越感と、植民地支配者の被支配者に対する差別的態度との類似性に気付き、これらの姿勢こそが他者に「苦しみ」を与える「心なき自己愛」であるとするようになり、1930年代には台湾の反植民地主義的ナショナリズムへの共感的姿勢を提示するに至ったことを捉えた。また、1930年代のイングランド長老教会組織内におけるムーディの位置づけを行うため、彼とエドワード・バンド、L・シングルトンの三者による台湾人ナショナリズムに関する議論を比較検討し、ムーディが台湾でのキリスト教会の発展を志向する中で台湾人の文脈に寄り添うことを試み、その反植民地主義に共感可能となったことを明確化した。 次に、1930年前後の台湾人キリスト教徒による神学教育に関する議論を検討するため、イングランド長老教会が設置した台南神学校(1877年)の『校友会雑誌』(1928-33年)に着目した。本資料の調査・検討により、植民地支配の影響のために互いに大きく異なる教育経験を有した1930年前後の台湾人キリスト教徒らが、本誌において台湾社会全体への宣教の使命を論じることを通して「台湾人」意識を想像・表現し、独自の方法でキリスト教を内在化していたことの意義を捉えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度には、ムーディの英文著作と合わせて白話字(〓南系台湾語のローマ字表記)著作の包括的調査を行う予定であったが、計画に変更が生じ、実際にはムーディの英文著作の包括的検討と、彼の思想変遷の契機と過程を位置づける作業を優先的に実施した。遂行した作業は本研究の目的に資するものであり、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本研究では2012年度に本格的な遂行を見送ったムーディの白話字著作の調査・翻訳・分析を通し、ムーディの思想変遷が、彼の宣教実践において具体的にどのように反映されていたのかを捉えてゆく方針である。同時に、同時期の台湾人キリスト教徒がどのようにしてキリスト教を内在化していたのかという問題を引き続き考察するため、今後の研究では特に日本に留学して神学を修めた台湾人学生らの言論に着目する計画である。これらの作業を通し、日本統治下台湾において、宣教師ムーディおよび神学を修める台湾人キリスト教徒らが、キリスト教徒としていかにして現状の問題に直面しようとしていたのかを捉えることを目的とする。
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