昨年度に引き続き、今年度も近代における「崇高」概念を広く検討し、まずはエドマンド・バークに関する研究の成果を論文として公表した。従来の先行研究には欠けていた偽ロンギノスとバークの崇高論のつながりを指摘した同論文は、美学会の欧文誌である国際版『美学(Aesthetics)』に掲載された。 また、近代における偽ロンギノスの再評価を踏まえつつ、『崇高論』というテクストの構造を論じた口頭発表を1度(英語)、20世紀後半のフランスにおけるリオタールの「崇高」を主題とする口頭発表を1度(英語)行なった。以上の国際会議における発表および国外の研究者との議論を通じて、本研究は当初の研究計画に即して大きく進展したと言える。 さらに特筆すべき成果としては、フランスのパリ国際哲学コレージュにおいて、近代の崇高概念をめぐる発表を行なったことが挙げられる(仏語)。コレージュのプログラムの一環として行われた同発表では、18世紀から20世紀にかけての崇高論の展開を「理性」と「非理1生」という近代の主要な問題系のもとに位置づけることができた。これは、近代における崇高論の展開を「モダニティ」という錯綜した概念との連関のもとに論じることを目的とした本研究において、大きな成果であったと言える。 以上の成果とともに、今年度はフランスの哲学者ジャン=リュック・ナンシーをめぐるワークショップでの発表(日本語)、書籍『人文学と制度』への執筆および翻訳、さらに同書をめぐるワークショップでの発表(日本語)を行なった。以上の成果は、先に挙げた本研究課題の主要実績とも緊密に連動し、今後のさらなる研究へと発展していくことが予想される。
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