本研究は次の4つの研究課題を設定した。それらに対応させて当該年度の研究成果を述べる。 1.【課題A 実証研究:国境の歴史認識をめぐる団体・地方自治体間のネットワーク分析】「イタリア回想の記念日」は、その創設から10年が経過した。現地調査では、スロベニア・コペルで行われた「記念日」に関する歴史と記憶の書評会に参加した。スロベニア系の識者や研究者が主催した会では、イタリア国内の公共空間(道や広場、モニュメント)への国境の歴史認識の制度化が、イタリア国民の物語に適合するような解釈に回収されることへの強い危惧が存在することがわかった。 2.【課題B 質的調査:「国際協力と共生」を目指す団体の「私たち」の考察】トリエステの市民文化団体「チルコロ・イストリア」が企画運営する書評会に参加し、発表を行った。国境の歴史認識をめぐって、当事者には3つの異なった過去への向き合い方――「終わらない過去」「鎮められた過去」「終わらせない過去」――が現われている。国際協力と共生を目指す「私たち」を構築するためには、①「終わらない過去」をいかに「鎮められた過去」として受容できるか(痛苦を体験した個々人の内なる和解)、②いかに「終わらせない過去」の恣意性を明らかにし、「鎮められた過去」へとつくりかえていけるか(痛苦を体験した集団間の和解)が重要になるという知見を得た。 3.【課題C 理論研究:地域の社会運動に関する諸概念の検討】同研究の成果である『“境界領域”のフィールドワーク』(新原道信編、2014年)のリフレクションを行った。現代社会の「物理的限界」である惑星地球と身体を組み込んで社会理論を構築していく重要性が確認された。 4.【課題D 調査関係:〈調査する側〉と〈される側〉の関係のリフレクション】コペル沿海大学(スロベニア)の現代史家J.ピルイェビッチ教授の招聘により、成果報告を行い、現地との知見交換を行った。
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