研究課題/領域番号 |
11J06890
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
松原 真 国文学研究資料館, 研究部, 特別研究員(PD)
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キーワード | 仮名垣魯文 / 仮名垣派 / 明治文壇 / 新聞小説 |
研究概要 |
本年度の成果は次の二点である。 (1)単著『自由民権運動と戯作者――明治一〇年代の仮名垣魯文とその門弟』を和泉書院より刊行した。「あとがき」にも記した通り、本書は、仮名垣魯文及びその門弟の明治10年代における活動実態を明らかにし、それを通じて、近代日本の基礎が築かれるこの期の文学空間をより立体的に再現する試みである。なかでも、彼等と自由民権運動、特に自由党との繋がりを見出すことを重視している。本書の結論はだいたい以下の四点にまとめられる。①仮名垣魯文は明治10年代に新聞人または続き物作家(新聞小説家)として多くの読者に支持され、門下生を多く輩出し、多方面にわたる人脈を持ち、文壇(新聞界)に巨大な権力を築いていた。②仮名垣魯文とその門弟の戯作表現は、社会的に無毒無害なものではなく、明治政府の意思に反する位相にあった。魯文達はこのことに強く意識的で、特に読者獲得のために、戦略的に自らの戯作表現を用いた。③上記二点に惹かれ、自由党系の民権家、政治小説家は魯文達にみずから積極的に近づいた。一方、魯文達もまた、新聞の経営上好都合ということもあって、彼らとの交流を積極的に受け入れた。④野崎左文(魯文門弟)の著名な回想とは異なり、実際には③の交流の中から、二世花笠文京(魯文門弟)のように民権家として自由民権運動のための小説を書く戯作者も現れた。――そして、この政治運動の衰退とともに仮名垣魯文とその門弟の時代は終わり、入れ替わるようにして、坪内逍遥唱える写実主義を始めとする新興文学が文壇を席巻する、というのが本書の史的見取り図である。 (2)仮名垣魯文またはその門弟が所属した小新聞に連載された続き物(連載小説)について調査分析を行った。紙面を悉皆調査しどこに何が書かれているかを明らかにしたうえで、続き物を実際に読みメモを取った。本年度は特に「絵入自由新聞」(明治15~23年)を中心的に扱った。ただし、これについては引き続き調査分析を必要とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黒岩涙香について本年度も論文化できなかったのは不徳のいたすところである。しかし、本年度は今までの成果をまとめたものを単行本として刊行でき、ほかに、現在論文を鋭意準備中である。したがって本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
明治20年前後、いわゆる近代文学成立期について研究していきたい。坪内逍遥(写実小説)も黒岩涙香(探偵小説)も仮名垣魯文の影響圏から生まれた。魯文達の小説との比較検討を通じて、明治20年前後に相次いで現れた新興文学の画期性または継続性を明らかにしうると考えている。
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