本研究の目的は、アンダマン海産特殊海産物(自家消費を目的としない、主に華人市場を最終目的地とした南海産品)をめぐるヒトとモノの動態を、生態史という観点から明らかにするものである。研究をすすめるにあたって、アンダマン海において特殊海産物を採るモーケンの人びとによる資源利用の実態、モーケンと華人の仲買人との間で行われる特殊海産物売買の過程、国内外の華人市場における特殊海産物の消費の様態という3点に着目し、研究課題に取り組んできた。 本年度の成果は、シンガポールおよび台湾の華人市場(中華街)における調査に集約される。具体的には、中華街内で特殊海産物を扱う商店(卸売商店含む)の分布を地図化し、取り引きされる特殊海産物の一覧表を作成した。なかでもナマコに注目し、生食されるものと乾物で輸出されるものの種類と値段を表にまとめた。タイからの輸入品は存在せず、オーストラリアや日本(北海道)、それにアメリカ大陸から多くのナマコが輸入されている事実は新しい発見であった。 その他、タイ南部においてモーケン村落および華人系仲買人が経営する商店においても調査を実施した。そして、昨年度も実施した各種特殊海産物の華人系仲買人による買い取り価格を表にして整理した。タイの華人市場だけでなく、海外(アジア圏)の華人市場における特殊海産物に関する調査を実施することで、特殊海産物の生産・流通・消費という一連の過程を、単に一国一地域内の動きをみるだけでは把握できない、国境を越えた人とモノのネットワークがある点が少しずつ明らかになりつつある。
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