研究概要 |
バクテリアから高等動植物に至るまで多くの生物は「概日時計」という内因性の時計を持ち,昼夜交替や季節変動などの外界の周期的環境変化を積極的に予測して効率的な生命活動を実現させている。例えば,人の睡眠・覚醒や植物の開花には概日時計が密接に関わっていることが知られている。つまり,非常に重要な生体システムであることがわかる。細胞内ではたらく概日時計は,概ね次の3要素から成り立っている。まず,光などの外界の刺激によって時刻合わせをする「入力系」,時間情報を発信する「振動体」,そして時間情報を受け取り様々な生理活性を実現させる「出力系」である。光合成シアノバクテリア,Synechococcus elongates PCC7942(以下S.elongates)は概日時計を持つ最も単純な生物であり,概日時計の分子機構や生理機能を研究する上で非常に有用なモデル生物である。現在まで,S.elongatusの概日時計システムの解析は明期での解析が中心で,夜間の概日時計システムの検討はほとんどされてこなかった。しかしながら,概日時計システムが本来どのように自然環境下で働き,環境適応を実現させているか理解するためには,昼だけではなく夜の概日時計システムの解析が必須である。そこで,本研究では,[1]最もシンプルな概日時計のモデル生物シアノバクテリアで,全く未解明である夜間の概日時計システム解明を目指す。[2]そして,真核生物では達成困難であろう,昼夜環境下での細胞内の概日システムの織りなす動的ダイナミクスを理解する。[3]これを通して,高等動植物に見られる光周性などの高度な環境適応メカニズムの基本骨格の理解を深めることを目的として研究を行った。 本年度の夜間におけるシアノバクテリア概日時計出力系の研究の結果,「シアノバクテリアの出力系は,時計遺伝子の転写無しに機能することができる」という新たな知見を得ることができた。そして,研究成果を論文にまとめ,発表を行った(Hosokawa et al.,2011 PNAS)。
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今後の研究の推進方策 |
今後も継続してシアノバクテリア概日時計システムの研究を行う。本年度は夜間における概日時計システムの機能について概日時計の出力系に着目して研究を行ってきたが,次年度も引き続き出力系に着目し,より詳細な分子メカニズムを明らかにしたい。さらに夜間だけではなく,昼夜環境下での概日時計システムに着目して,研究を親展させていきたい。
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