研究課題/領域番号 |
11J07003
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
松田 隆宏 独立行政法人産業技術総合研究所, 情報セキュリティ研究センター, 特別研究員(PD)
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キーワード | 暗号技術 / クラウド / 証明可能安全性 |
研究概要 |
本研究課題では、クラウド環境でも高い安全性・信頼性を持つ公開鍵暗号技術の構成が目的である。本年度は、具体的目標の一つであるクラウドサービス提供者に置く必要がある信頼を低減することの手助けとなる暗号技術である「代理人再暗号化方式」、及び「準同型性暗号方式」に関し成果を挙げた。これらの要素技術は国内外の暗号理論の研究分野で近年盛んに研究されている。 代理人再暗号化方式とは、あるユーザA宛ての暗号文を、Aが委託を許した「代理人」が別のユーザB宛ての暗号文へと再暗号化できる要素技術である。しかもこの再暗号化時の操作では、代理人に平文の情報は漏れない。代理人再暗号化方式についてこれまでは、暗号技術には必須である「選択暗号文攻撃に対する安全性」(以下、CCA安全性)を達成する方法は知られていなかった。本研究では、代理人再暗号化方式のCCA安全性の厳密な定義、及びそれを満たす構成法を示した。この成果は、査読有り国際会議CT-RSA 2012で発表した。また、暗号文のみから平文に関する様々な演算を行うことが可能な「準同型暗号」について、従来暗号文にアクセス制御が不可であった準同型計算の実行を、特定の秘密情報を持つ者のみができるように制限した「鍵付き準同型暗号」を提案し、安全性定義や実用的な効率を持つ構成法を複数示した。本成果は、査読無し国内会議SCIS 2012において発表した。 本年度は、研究開始年度にも関わらず上記二種の成果それ以外にも多数の成果が得られている(13.研究発表を参照)。今後も研究計画に沿い成果を発展させ、代理人再暗号化方式や準同型暗号に関し、さらなる効率化及びその理論的限界の導出、高度な安全性・機能の達成に向け、研究計画に沿って研究を遂行していくほか、本年度の査読無し国内会議の成果は、内容をさらに発展させ、今後査読付き国際会議や英文論文誌へと投稿することを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クラウド環境でも高い安全性・信頼性を持つ公開鍵暗号技術、クラウドサービス提供者に置く必要がある信頼のレベルの低減を助ける暗号技術という目標に対し、順調に成果に繋がっているため。具体的には、近年国内外のクラウドサービスに目を向けている企業の注目を集めている「代理人再暗号化技術」について、公開鍵暗号技術については権威ある会議のCT-RSA 2012での採録されるなど、査読付き国際会議での成果へとつながっている。また、準同型暗号を始めとし複数が査読無し国内会議での成果を挙げているが、これらはその内容を発展させ、査読付き国際会議や英文論文誌へと投稿を検討中であり、さらなる成果につながるであろう感触を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も研究計画に沿って、現在得られている「代理人再暗号化方式」や「準同型暗号」はもちろん他の機能を持つ公開鍵暗号技術について、クラウド環境に特有の状況を考慮した安全性を提供できる公開鍵暗号技術を検討し、それらの安全性についての理論的な検討、実際に安全性を満たす方式の設計を推し進める。特に、暗号化したまま平文に関し"任意の"計算を行うことができる、準同型暗号の中でも最も"高機能"な「完全準同型性」と呼ばれる性質を持つ方式について着目したい。完全準同型性を持つ公開鍵暗号方式については、2009年に初めて実現が可能(しかし非現実的な効率性)であることが示されて以来、これまで様々なパラメータの効率化、及び安全性の根拠とする仮定を弱めるという研究が行われてきていたが、今年度の等研究分野における発展は非常に目覚ましいものであった。この完全準同型暗号について、効率な構成法や、理論的な効率の限界(下界)の導出、高機能化などを検討する。
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