研究課題
【研究目的】IL-6やTNF-αは炎症性サイトカインとして知られ、関節リウマチや炎症性腸疾患といった自己免疫疾患、癌など様々な疾患の原因分子として注目されている。またサイトカインは受容体を介して細胞内シグナルを活性化し、標的遺伝子の発現を誘導することでその生理活性を発現する。この細胞内シグナルはサイトカインによって異なり、IL-6の場合はJak/STAT3シグナルを、TNF-αの場合はNF-κBシグナルを用い様々な遺伝子の発現を制御している。当研究室では、このSTAT3、NF-κBに対する新規結合分子として、核内コリプレッサーKAP1/TIF1β/TRIM28を同定した。本研究の目的はIL-6/STAT3ならびにTNF-α/NF-κBシグナルにおけるKAP1の機能を解析することで、サイトカインシグナル制御因子としてのKAP1の新しい機能を明らかにするとともに、IL-6やTNF-αシグナルの新たな制御機構を明らかにすることである。【研究成果】本年度はTNF-α/NF-κBシグナルにおけるKAP1の機能解析を中心に研究を進めた。これまでに「KAP1がTNF-α/NF-κBシグナルを負に制御する」こと、またその制御機構として「KAP1がp65のアセチル化を減弱させ、p65の核外排出を促進させること」をすでに明らかとしており、今回さらにそのp65のアセチル化制御機構について詳細な解析を行った。そして「TNF-α依存的なp65のアセチル化には、STAT3によるアセチル基トランスフェラーゼp300のリクルートが必要なこと」、「TNF-α刺激によりSTAT3はセリンリン酸化を受け活性化すること」などを明らかとし、KAP1はSTAT3の活性を阻害することでSTAT3を介したp65のアセチル化を制御する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究目的はKAP1によるIL-6/STAT3ならびにTNF-α/NF-κB両サイトカインシグナル制御機構の解明である。本年度の結果から、TNF-α/NF-κBシグナルにおけるKAP1の制御機構解析が大きく進んだ。またその過程で、TNF-α/NF-κ8シグナルにおいてSTAT3が重要な役割を担う可能性が示唆され、そのSTAT3の役割に対する詳細な解析を行うことでKAP1のIL-6/STAT3シグナルに対する制御機構の解明も大きく進むものと考えられる。
KAP1によるサイトカインシグナル制御機構の解析をさらに進めると共に、今後はin vivoでの実験を通してサイトカインシグナルにおけるKAP1の生理的意義を解析する予定である。そのため、コンディショナルノックアウトマウスを作成し、サイトカインシグナルの異常が関わる疾患モデルにおいてKAP1の役割を解析していくことが必要だと考えている。
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