研究課題
(1)社会経験により活性化する神経細胞とその後の養育行動促進の関連性社会経験のないメスマウスに仔マウスを繰り返し暴露する操作(仔マウス感作)を6回繰り返す群、1回繰り返す群(1回感作群)、暴露しない群(ctrl群)を作出し、4日後に仔マウスを再暴露し、巣戻し行動試験を行った。その結果6回感作群において巣戻し行動を呈するまでの潜時が他の二群より有意に短いことがわかった。感作時と4日後の巣戻し抗同時に活性化する神経細胞をc-fosで標識し、各群で比較したところ、経験獲得時には経験の量(=感作回数)依存的に神経活性が高まることがわかった。一方、4日後の巣戻し行動時には6回感作群においてのみ視床下部外側部(LPO)の活性が高まることがわかった。このことから、より多くの仔マウス感作経験を獲得することでLPOの神経細胞が機能的に成熟し、養育行動が活性化する可能性が示唆された。次に、神経細胞の可塑的な変化を検討するために、神経活性の履歴をin vivoで可視化可能な遺伝子改変マウスを用い、経験獲得時と仔マウス再暴露時に活性化する神経細胞をそれぞれGFPとzifで共染色した。その結果、6回感作群においてGFPとzifで共染色されるLPOの細胞が1回感作群、ctrl群よりも有意に増加することが見出された。このことから経験獲得時に活性化したLPOの神経細胞の再活性化により養育行動促進が生じることが世界で初めて明らかとなった。(2)社会経験による神経細胞活性化に対するオキシトシン(OT)の機能解明上記(1)より、社会経験を獲得することでLPOの神経細胞が機能的に成熟し、仔マウス刺激に対して鋭敏に反応することで養育行動が促進する可能性が見出された。このような機能成熟にOTが関与している可能性を検証するために、仔マウスを6回感作する30分前にLPOにOTの作用拮抗薬(OTA)を脳内投与した。生理食塩水を投与した群では感作を繰り返す毎に仔マウス回収潜時が徐々に減少し、感作終了4日後まで養育行動の活性が持続的に維持されていた。一方、OTA投与群では感作を繰り返しても仔マウス回収潜時が減少せず、仔マウス感作による養育行動の亢進が生じないことが見出された。このことより、仔マウス感作による養育行動の持続的活性化にOTが関与し、(1)で明らかにしたLPOの神経細胞がOT感受性を持っている可能性が示された。さらに、感作後にOT産出細胞の多くが存在する視床下部室膀核(PVN)の神経活性が高まっていることが確認され、感作中にOTの分泌が上昇している可能性が見いだされた。また、養育行動は社会経験のみならず性ホルモンによっても制御を受けるが、アンドロゲンの投与により養育行動の亢進の低下とOT免疫応答細胞数の減少が確認され、アンドロゲンがOT神経系を介して養育行動を制御している可能性が見いだされつつある。(3)pup USVsによる養育行動誘起の神経メカニズム調査
2: おおむね順調に進展している
これまでまったく明らかにされていなかった「社会経験による養育行動促進の神経メカニズム」に対して、直接的な証拠を示すことが可能になったため。また、神経メカニズムの変化に対する内分泌メカニズムとしてオキシトシンの可能性にまで言及することができたため。
社会経験により活性化し、さらにその後の養育行動時に活性化した神経細胞が本当に養育行動促進に関与するのか示すために、同定した細胞を特異的に機能抑制・強化することを予定している。さらに、オキシトシン神経系特異的な活性操作により、同定したLPO神経細胞に対するOTの直接的機能の実証を試みる。これらにより社会経験による養育行動促進のメカニズムをさらに詳細に解明できることが期待される。
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Behavioral Neuroscience
巻: 127 ページ: 432-438
10.1037/a0032395
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