研究課題/領域番号 |
11J07136
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
成川 達也 広島大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 修正重力模型 / 銀河団ハロー / 非線形機構 / 重力の遷移 / 観測的制限 / 重力レンズ |
研究概要 |
本研究の目的は宇宙の加速膨張の起源となる物理機構の解明であり、第一段階として宇宙論スケールにおける重力理論の検証を目的として研究を実施している。本年度は、非線形領域、特に銀河団ハローにおける重力理論の検証を理論的及び観測的に以下のように実施した。 我々は、一般相対性理論にスカラー的な自由度を加えた、ガリレオン型重力模型に注目した。ガリレオン型重力模型はスカラー場により加速膨張を説明可能でかつ物質近傍ではスカラー場を遮蔽して一般相対性理論を再現する性質を持つ。よって、銀河団等のハローで重力の遷移が現れ得る。 1、銀河団中のスカラー摂動の非線形進化の解明 我々は球対称静的な状況で無衝突ボルツマン方程式の解を用いて、スカラー場の効果を考慮したボアソン方程式を解いた。その結果、ガリレオン型重力模型では、銀河団ハローの半径の大きい領域で密度プロファイルが一般相対性理論の場合よりも増幅されることを明らかにした。また、ガリレオン型重力模型における密度プロファイルは一般相対性理論のものと同じプロファイルになると仮定した場合、自由粒子の回転速度が銀河団ハローのビリアル半径程度のスケールにおいて、一般相対性理論の場合よりも10パーセント程度大きくなることを明らかにした。この結果は、銀河団ハローの大きいスケールにおいてスカラー場の遮蔽機構がスカラー場を完全には遮蔽できておらず、重力の遷移が現れていることを示した点が重要である。 2、重力レンズを用いた修正重力模型の制限 ガリレオン型重力模型では重力レンズポテンシャルが修正を受けるので、銀河団ハローにおける重力の遷移を観測的に検証するため、我々は重力レンズ現象を用いた銀河団ハローの密度プロファイルの観測データに注目した。我々は有効重力定数と重力の遷移スケールの2つのパラメータによって重力の修正を特徴付け、これらに観測的制限を与えた。現時点での制限は強いものでは無いが、この検証方法はユニークであり、今後制限を強くできることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに非線形領域における重力理論の検証については、当初の予定通り、理論的なアプローチと観測的なアプローチをどちらも実施することができ、ある程度の成果を上げることができている。理論的にはガリレオン型重力模型における銀河団中のスカラー場の非線形進化を球対称静的な場合に調べることができている。観測的には銀河団の重力レンズによる観測データを用いて重力の遷移パラメータにある程度の制限を与えることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、重力の修正への制限を強くするためには、銀河団ハローのさらに大きい半径も含むデータを提供する将来観測が待たれる。なぜなら、大きい半径では、スカラー場の効果が効くため一派相対性理論からのずれが顕著であり、重力の遷移により強い制限を与えられるからである。しかし、大きい半径では近傍銀河団ハローの効果も無視できなくなる。そこで、環境の効果を考慮したハローのモデリングを行うことが今後の課題である。また、非線形領域におけるモデリングが完成すれば、もうひとつの目的である大規模構造を用いた重力理論の検証を実施する。非線形機構を考慮した相関関数の計算を実施し、複数の統計量を組み合わせて系統誤差の小さい検証量を構築する。
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