研究概要 |
〈研究(1):原油中の希土類元素(REE)〉原油の生成過程における水一堆積岩と原油との間でのREEの分配挙動の解明を目指し,有機物の熟成過程におけるREEの分配挙動を模擬した室内実験を様々な温度条件下で行った.その結果,温度が高くなるにつれて腐植物質であるフミン酸に吸着していたREEが堆積岩へと分配されていくことが明らかとなった.同様の現象は天然でも生じていると推測されたため,石油資源開発から秋田県由利原油田のコア試料を提供して頂きREE濃度を測定したが,堆積岩へのREEの再分配は認められなかった.今後は,室内実験で見られた現象と天然で生じている反応の違いを埋めていく必要がある. 〈研究(2):水―岩石反応温度計としてのユーロピウム(Eu)異常の解釈〉試薬を調製し,主成分の存在度を保ったままREE濃度を高くした玄武岩を合成し,40,60,80℃で長期間反応実験を行った.反応温度が低く,同位体比を測定できるだけのEuは溶出されなかったが,水―岩石反応における重要な基礎データが得られており,今後は反応後の固相試料(合成玄武岩)の組織観察などを行なう予定である. 〈研究(3):古酸化還元指標としてのセリウム(Ce)異常の精密化〉これまでの研究で化学状態と安定同位体比を組み合わせることでより精密な酸化還元指標となることが明らかとなったことから,実際の地質学試料への応用を始めており,美濃帯の炭酸マンガンノジュールに現れる正のCe異常についての研究や,三畳紀のチャート試料について結果が出始めている.また,同じ希土類元素であるネオジムとサマリウムについても同様の実験を行い,化学的性質が似ている希土類元素の安定同位体分別を支配する要因が吸着構造に依存することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究(2)については計画変更を余儀なくされているが,研究(1)ではこれまで着目されていなかった有機物の熟成過程における元素の挙動について理解が進んでいる1また,研究(3)では天然試料への応用を進めている一方で,ネオジムとサマリウムの室内実験から希土類元素安定同位体分別について重要な知見が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
研究(1)については,今後も様々な研究機関等に依頼し,原油および貯留層(岩石)のREE濃度を測定することで,有機地球化学と無機地球化学の境界領域で生じる現象を明らかにしていく.研究(2)については,反応後の合成玄武岩の試料観察を行い,水一岩石反応における希土類元素の挙動を明らかにしていく.研究(3)については,今後も様々な地質学試料へと応用し,地球史を通した酸化還元状態の変化を明らかにしていく.
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