研究課題/領域番号 |
11J07196
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
横山 由佳 広島大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | セレン / ヒ素 / カルサイト / XAFS / 量子化学計算 / 放射性核種移行 |
研究概要 |
本年度は、カルサイトへと取り込まれるセレン及びヒ素の価数別分配挙動を実験室及び分子レベルで解明すること、そして、その天然環境での挙動を明らかにすることを目的として、以下の通り研究を実施した。 1、カルサイトへのセレンの価数別共沈実験を行った。カルサイトに取り込まれたセレンのXAFS分析を行った結果、4価のセレンの方が6価のセレンよりも150倍以上カルサイトへ分配しやすいことが分かった。価数によって分配挙動が異なることは、特に、酸化還元環境の変動が激しい地下環境におけるセレンの移行挙動を理解する上で重要である。 2、セレン及びヒ素がカルサイトへと分配する際に示す価数別の分配挙動(セレンは4価、ヒ素は5価が取り込まれやすい)を決める要因を原子レベルで探るため、量子化学計算による分子シミュレーションを行った。その結果、カルシウムイオンとより強い親和性をもつ化学種がカルサイトへと取り込まれやすいことが分かった。これを応用すれば今後、他の様々な微量元素がカルサイトへ取り込まれる際の分配挙動を、その物理化学的性質に基づいて系統的に理解する事や予測する事が可能となる。 3、地下の非常に還元的な環境で沈殿したカルサイト中のヒ素の化学状態分析を行った。幌延深地層研究センターで掘削された深度500mの堆積物中に沈殿したカルサイトを分析試料とした。様々な鉱物が共存する試料から確実にカルサイトを分析するため、X線マイクロビームを用いた分析を行った。その結果、非常に還元的な環境で沈殿したカルサイトであるにも関わらず、酸化的環境で安定な5価のヒ素が検出された。このように液相側のヒ素の価数は固体側に保存されておらず、カルサイト中のヒ素を古酸化還元環境の指標として利用する事は難しいと考えられる。しかしながら、カルサイトが地下の還元的環境でもヒ素のホスト相として機能しているという事実は、環境化学的に非常に重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験及び分析の進行状況は予定通りであり、また当初の予定に加え、実験から得られた結果の量子化学的検討も新たに行っているため、順調である。しかしながら、論文の執筆が十分に進んでいないため、研究全体としての進行度はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
論文執筆のためのデータは概ね揃っているため、今後は論文執筆を研究の最優先事項とする。また、古環境復元を目的として石灰岩のヒ素及びセレンの化学状態分析を当初予定していたが、ヒ素を古環境の指標として利用することが難しいことが明らかになったため、代わりに、放射性核種^<79>Seの高レベル放射性廃棄物から生物圏への移行挙動解析を目的とした天然試料の分析を行う。試料は幌延深地層研究センターで掘削されたカルサイトである。セレンだけでなく、ヒ素の化学状態分析も進めることにより、酸化還元環境の変動が激しい地下におけるヒ素及びセレンとカルサイトの相互作用についてそれぞれの化学状態に基づいて研究する計画である。
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